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伊藤匠は「夢を半分実現してくれた」かつてのライバル、学生名人・川島滉生が語る“幼なじみ”への思い「たっくんは全てを将棋にささげていた」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKeiji Ishikawa(L)、Yuki Suenaga(R)
posted2023/11/10 06:01
竜王戦で初のタイトル戦挑戦となった伊藤匠。その伊藤と幼少期、しのぎを削った学生名人・川島滉生さんに話を聞いた
「僕は将棋に対するプライドが、非常に高いようなのです。これはみんなから言われるんですけど……」
実は、川島さんは将棋への情熱が上下動する期間が続いた。中学生の頃は伊藤を含む友人のほとんどが奨励会に行った影響もあって「ほとんど将棋をやっていなかった」そうだ。しかし中3時の全国大会でベスト8に終わった一方で、優勝したのは小学校時代からの知り合いだったという。その事実に川島さんは「追い抜かれた気分で、プライドが傷ついたというか……これはマズいと大きなショックを受けて、それを満たすためには全国優勝するしかない、と。そこから将棋に本気で向き合い直したんです」と語る。その宣言通り、高1の時に高校生全国大会で優勝するのは、元来持つ「将棋に向いている」才能が花開いたわけだが……。
何十年という単位で将棋と向き合える人が、本当に強い
そんな十数年間を経て、川島さんが痛感したもの。それはモチベーション維持についての難しさである。伊藤の名前を出してこう話す。
「期間限定で〈やれ!〉って言われたら多分できるし、全速力で頑張ることはできるんです。だけど、ずっと頑張るのは無理なんです。例えば受験勉強だって、2年間など一定期間頑張れば……と思えるから、やり遂げる面があると思うんです。でも、もし〈あなた、人生でずっと受験勉強していなさい〉と言われたら、普通の人間なら相当無理な話ですよね。でも伊藤挑戦者は、それができる。直接的に将棋が強いといった次元の話ではなく、彼のように継続的に、何十年という単位で将棋と向き合える人が、本当に強いのだと思います」
プロ棋士として人生を懸けることの難しさ。大学入学後に学生名人となり、朝日杯将棋オープンでは「序盤がヘタクソなので大失敗しました」と謙遜しながらも、プロ棋士相手に得意の終盤で逆転勝ちした実績を持つ人物でも、その壁の高さ、分厚さを伊藤匠という棋士を通して実感しているのだ。
これ以上キツい相手はいない
そんな伊藤は現在、藤井との竜王戦に臨んでいる。初タイトル戦で全国各地を転戦している元ライバルにして友人に、川島さんはこうエールを送る。