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「試合が長すぎる」日本でもピッチクロック導入を検討…一方で反対する球団は「時間短縮は売り上げ減につながる」プロ野球は誰のものなのか?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/31 17:00
今シーズンからMLBで導入されたピッチクロック。バックネットとバックスクリーンに時間をカウントする時計が表示され、試合の時間短縮につながっている
メジャーリーグでも5回裏終了後にグラウンド整備の時間はある。ヤンキースタジアムではその間に「YMCA」が流れて、グラウンド整備員とファンが一緒に踊る光景が有名だ。しかしその間に守備側の選手はそれぞれのポジションに散って、整備の邪魔にならない場所でキャッチボールなどして、インターバルは2分15秒前後に抑えられている。先のワールド・ベースボール・クラシックでは、日本方式を知らないラーズ・ヌートバー外野手がただ1人、グラウンドに飛び出して困惑の表情を浮かべたことがあった。
この謎の休憩時間を削れば、おそらく2分ほどの時間短縮にはなるが、あとはイニング間に削れる時間はほとんどない。となるとやはりプレー時間をどう削っていくか。特に2009年に制定されたがあまり遵守されていない15秒ルールの徹底が、試合時間短縮のポイントなのは明白である。
その答えとしてMLBが導入したのが、ピッチクロックということだった。
ただ、日本での導入には、反対する球団が出てきているという話を聞いている。
その反対の大きな理由はお金なのだという。
ピッチクロック導入にかかる経費は、単純に計測用の時計を球場に設置するだけではない。計測する要員を各2名ずつ試合会場に配置しなければならず、正式導入となれば一軍だけでなく二軍の試合にも時計と計測要員を置くことになる。当然、NPBにはそんな資金的余裕はないので、その人件費等を12球団で負担しなければならない。さらにはサイン交換を迅速化するためにピッチコムを導入するので、そのシステム構築や通信環境、通信機器の整備などの経費も必要になってくる。
そしてもう1つ、これは元も子もない話なのだが、ピッチコムの導入で試合時間が劇的に早くなることを否定する声があるというのだ。
それは球場内の売店売り上げの減少を危惧してのことだった。
試合時間が長ければ長いほど、ビールや清涼飲料水など売り子さんや売店の売り上げは上がっていく。お腹が空けば軽いスナックなどの軽食も売れることになる。試合時間が30分、短くなれば通常なら1試合でビールを3杯飲む観客が、2杯で終わってしまうことになるのではないかということだ。
むしろ試合時間が長い方が売り上げは上がり球団も業者も儲かる。だからピッチコム導入で劇的に試合時間が短縮されることを、嫌がる球団があるという話なのである。
若い人々からの声「野球は試合が長すぎる」
オーナー会議で後藤オーナーが指摘したように、試合時間の短縮は野球を観戦する新たなファン開拓にとっては絶対的な命題である。