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日本人が知らない、なでしこジャパン“海外での絶賛ぶり”…米メディア「日本はランキング1位」、英国人記者「なぜノルウェーは失敗した?」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2023/08/10 11:04
W杯ベスト16でノルウェーを3-1で破り、試合後に笑顔を見せた長谷川唯と清水梨紗
コックス記者の分析は、知的好奇心をくすぐってくるもので、「この大会で、日本はどの国よりも素晴らしいシステムを誇る」としたうえで、ノルウェーは理に適った対策を見せたと書く。
日本のフロント5(田中美南、藤野あおば、宮澤ひなたに加え、遠藤純、清水梨紗の両ウイングバック)に対し、ノルウェーのリーセ監督は5バックの布陣を採用した。
そこで、本来はミッドフィルダーであるイングリッド・エンゲンをディフェンスに下げ、田中のマークにつけた。ところが、田中がエンゲンを混乱に陥れ、それがオウンゴールにつながったとコックス記者は書く。
「エンゲンがピタリと田中をマークするはずが、田中がボールを持つ宮澤の方に走り出し、エンゲンは最初、一緒についていったのだが、チームメイトに田中のマークを受け渡し、エリアを守るのを優先して戻ろうとした」
この逡巡が明暗を分ける。宮澤が蹴ったクロスに対し、エンゲンは思わず足を出してしまい、それは自軍のゴールネットを揺らした。コックス記者は書く。
「エンゲンはパニックに襲われたと思われる。宮澤のボールに対してうまく対応できずにオウンゴールとなってしまう。これは日本が崩して取った得点ではない。しかし、この失点はノルウェーのプランがうまく機能しないというサインであり、試合を通してエンゲンは苦戦を強いられた」
アタッカーたちがずっと前線にとどまることなく、上下動を繰り返したことでスペースを生み、エンゲンを無力化していた。
英国人記者が望む決勝は「日本対フランス」?
実は、後半に入って清水が相手パスを奪い、2点目を決めたシーンも、同じような構図が見られた。このときは遠藤が左サイドでボールを保持し、宮澤がエンゲンから離れてボールを受け、ペナルティエリア内に侵入した長谷川唯にパスを出している。そこからノルウェーは自滅するのだが、映像を見ると、エンゲンは浮いた状態になり、機能していない。宮澤をマークしていればパスコースを消すことも出来たかもしれないが、エンゲンは日本のアタッカー陣に対して適切な回答を示すことができなかったと、コックス記者は分析している。
今回、日本のメディアでの分析が少ないなか、コックス記者の記事に私は魅了されている。それにしても、試合後数時間で写真も使いながらここまで深い分析ができることに驚愕を禁じ得ない。
「記事がこんなに面白くって、いいのか?」と思ってしまうほどである。