Number的、ウマ娘の見方BACK NUMBER
最後の直線の攻防だけで「150秒」…渡辺薫彦「とてつもなく長かった」を再現、アニメウマ娘『ROAD TO THE TOP』は1999年ダービーをどう描いたか?
text by
屋城敦Atsushi Yashiro
photograph byCygames, Inc.
posted2023/05/21 17:00
ダービーの直線の攻防、ナリタトップロードとテイエムオペラオーとの競り合いも丹念に描かれ、後ろにはアドマイヤベガが迫り…
死闘に終止符が打たれた後の姿には、明暗がくっきりと分かれていた。それぞれが全力を出し切ったが、勝者はたったひとり。晴れやかな顔を見せるアドマイヤベガとそれを讃えるテイエムオペラオーの傍らで、アドマイヤベガにクビ差で敗れたナリタトップロードは「トレーナーさんが信じてくれたのに……」と悔しさから溢れる涙を止められない。そしてトレーナーは「力は出し切った。よくやったぞ」と声をかける。
これは落胆して引き上げてきた渡辺騎手に沖芳夫調教師がかけた言葉と相重なる。
渡辺騎手はダービーの戦前、「馬主さんにお願いして僕を乗せてくれているのがわかる」と沖調教師への感謝を語り、「僕の恩返しが形としてできるのは、それ(ダービー)しかない」(『Number』1999年6月3日号)と誓ったが、惜しくも叶わなかった。そんな師弟愛を象徴する美しい光景が、時を経て蘇ったのだ。「ティッシュひと箱じゃ足りないくらい泣いた」、「なんてアニメを作ってくれたんだ」など、視聴者からは悲鳴のような絶讃が相次いでいた。
ローテを狂わせた北海道の猛暑
日本ダービーの後の第3話では、菊花賞に至るまでの臨戦過程が描かれる。ナリタトップロードは合宿先へと向かうバスで外の景色を見ながら惜敗したダービーを思い出してしまうなど精神的にかなり落ち込んでいる様子。実際に渡辺騎手もこの時期は本当に辛かったと後に語っている。
そんな中、合宿地へ到着すると、蜃気楼が立ち上るほどの暑さ。じつは史実でもこの年、三強は放牧先で猛暑に見舞われていたのだ。