フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「悔しさです。ずっと悔しさです」坂本花織(22歳)が世界選手権2連覇で流した“涙の意味”は…選手たちから尊敬される人間性「カオリは憧れ」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2023/03/30 17:01
世界選手権女子シングルで2連覇を達成した坂本花織。フリーの演技後には、悔し涙を流した
それでも坂本が「成長した」と語った部分
もともと坂本にとってフリップは得意なジャンプで、後半にコンビネーションで入れているのも安定しているからこそだった。
だが重要な舞台でフリップを失敗したのは、これが初めてではない。4年前にこの同じ会場で行われた2019年の世界選手権で、SP2位と好調なスタートを切りながら、やはりフリーで3フリップをパンクさせて5位に終わった。
「あのフリップを成功させていたら、カオリは優勝していた」と、当時振付を担当していたブノワ・リショーは言い切る。あのフリップのミスがメダルを逃した原因となったことは間違いなかった。
坂本は今回の大会の事前会見で、その雪辱を果たして記憶を上書きすることを2連覇と共に目標に掲げていたのである。
「本来であればノーミスで笑顔で終わりたかったんですけど、4年前と全く同じミスをしてしまってそれがすごく悔しかったんですけど、何とかその後3(トウループ)をつけたりとかリカバリーできたので、そこは4年前からは成長したかなと思いました」
坂本が会見でそう語ったように、フリップが1回転にパンクした後に3トウループをつけて1フリップ+3トウループのコンビネーションにしたことが、優勝の鍵となった。この3トウループのポイントがなければ、イに逆転されていただろう。
坂本に三浦璃来…日本選手の“ストイックさ”
悔しさばかりを言葉にする坂本だが、日本人選手として初めて世界選手権2連覇した嬉しさというのは感じているのか、と聞かれてちょっと苦笑した。
「メダルを見たら嬉しいんですけど……」と胸元にかけたメダルに視線を落とす。
「ぱっと顔をあげたら、悔しさがこみあげてくるんです」
ペアで優勝した三浦璃来も、よく似た反応だった。優勝したのにまず口にするのは、自分のミスに対する悔しさ。海外のスケーターなら、結果が良ければ「まあいいか」と、肩をすくめてすぐに気持ちを切り替えるのが通常だ。この生真面目さ、ストイックさは日本人特有の資質なのだろう。
だがこのストイックさこそが、日本の選手を強くしてこの大会で4種目中3種目で金メダルを取るという史上初の快挙を成し遂げる要因となったに違いない。