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<ドラフト5位→阪神のエース>青柳晃洋を大成させた金本監督の“目をつぶる勇気”「コントロールが悪いとか、そういうのは無視していい」 

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佐井陽介(日刊スポーツ)

佐井陽介(日刊スポーツ)Yosuke Sai

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posted2022/10/19 17:00

<ドラフト5位→阪神のエース>青柳晃洋を大成させた金本監督の“目をつぶる勇気”「コントロールが悪いとか、そういうのは無視していい」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

CSでも2度登板。DeNAとの第1ステージではDeNAのエース今永に投げ勝ち、合計12回2/3を投げて4失点も自責点は0

最後に勝負を懸けたドラフト1位選手が佐藤だった

 スカウト勢は大山以外にも例を挙げればキリがないほど、球団方針に合致する原石を懸命に拾い上げた。2016年にはこちらも「速球に強い」糸原健斗の5位指名に成功。2017年には素材は一級品ながら亜大で伸び悩んでいた左腕、高橋遥人の2位指名にも踏み切った。一方、現場は現場で粘り強い若手起用に覚悟をにじませる。取る側と使う側に理想的な信頼関係ができあがり、虎の育成路線は急速に整備されていった。

 エースを、4番を、リードオフマンを。2018年秋に金本監督が退任した後も方向性はブレない。くじ運には恵まれなかったが、2017年は早実の清宮幸太郎、2018年は大阪桐蔭の藤原恭大、2019年は星稜の奥川恭伸を競合覚悟で1位指名。外れ1位で獲得した馬場皐輔、近本光司、西純矢も順調に成長曲線を描いている。そして、2020年秋には4球団競合の末、超逸材・佐藤輝明の獲得に成功。貫いた方針が結実した瞬間でもあった。

 佐野は2019年1月に統括スカウトから球団本部顧問に肩書を変えた後、2020年限りで阪神を退団した。最後に勝負を懸けたドラフト1位選手が近大の佐藤輝だった。

「あれだけ飛ばせる打者はなかなかいない。遠くに飛ばす能力というのはある程度、天性の才能でもあるからね」

 佐野自身は1973年の阪神ドラフト1位選手。強打の外野手として1985年の日本一も経験している。浜風吹き荒れる広大な甲子園と戦い続けた田淵幸一、掛布雅之、岡田彰布らの姿を知る男の言葉には、説得力がある。

いよいよ20代の「育成世代」が主役を張る期間に

 大山に佐藤輝、2019年ドラフト2位の井上広大……。再び聖地と真っ向勝負できるだけのスラッガーをそろえた今、虎の未来には一本の芯が通っているようにも映る。

 就任3年目を迎えた矢野燿大監督のもと首位を走る今季も、近年の育成方針は脈々と受け継がれている。常日頃から心身の状態を気遣われ、根気強く起用される。佐藤輝、伊藤将司、中野拓夢ら新人を含む若虎たちの躍動は決して偶然の賜物ではない。

 この2年の間に鳥谷敬、福留孝介、能見篤史が退団。藤川球児は'20年秋にユニホームを脱いだ。レジェンドに頼れなくなった2021年、虎はいよいよ20代の「育成世代」が主役を張る期間に突入したようだ。

 69歳になった佐野は今年、地元の群馬県高崎市に戻った。26歳の選手会長近本が今春宣言した言葉を知ると目を丸くした。

「今年から黄金期に入ります!」

 スカウト冥利に尽きると言わんばかりに、「へぇ……そんなことを」とほほ笑んだ。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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