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“藤井聡太16歳に携帯番号を聞いた4年後”のタイトル戦対決… 出口若武六段(27)は叡王戦で「五冠の刺客」となれるか

posted2022/05/09 17:01

 
“藤井聡太16歳に携帯番号を聞いた4年後”のタイトル戦対決… 出口若武六段(27)は叡王戦で「五冠の刺客」となれるか<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

叡王戦第1局の出口若武六段と藤井聡太五冠

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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日本将棋連盟

藤井聡太五冠(竜王・王位・叡王・王将・棋聖=19)の2022年度初めての防衛戦は、タイトル戦に初挑戦する出口若武六段(27)との第7期叡王戦五番勝負。8回目のタイトル戦で、後輩棋士と初めて対戦。叡王戦第1局は4月28日に東京・千代田区「江戸総鎮守 神田明神」で行われ、藤井が先勝した。両者が4年前に対戦した新人王戦決勝三番勝負、出口六段の戦績などについて田丸昇九段に記してもらった。【棋士の肩書は当時】

 2018年10月、第49期新人王戦決勝三番勝負で藤井七段と出口三段が対戦した。

 藤井は前年のトーナメント開始時は四段だったが、竜王戦などでの活躍によって七段に昇段していて、新人王を獲得する最後の機会となった(新人王戦の出場資格は六段以下)。

 出口は澤田真吾六段、井出隼平四段、梶浦宏孝四段らの棋士や三段に5連勝し、奨励会員として5人目の決勝進出だった。公式戦で見事に活躍している藤井と、奨励会の三段リーグに12期も在籍している出口との勝負は、藤井の勝利が予想された。

 出口の師匠である井上慶太九段は当時、弟子についてこう語っている。

「彼は17歳で三段に昇段した有望株で、ツボにはまると強い。ただ取りこぼしもある。三段リーグはそろそろ突破してほしい。藤井さんとの勝負は、分が悪いのは当然。出口の将棋は軽快に動くタイプで、そんなペースに持ち込めば、チャンスありと期待しています」

新人王戦決勝後、出口は藤井に携帯番号を聞いていた

 新人王戦決勝三番勝負の対局は、いずれも熱戦が繰り広げられたが、藤井が2連勝して新人王を獲得した。

 藤井は「最後の新人王戦で、優勝という形で卒業できたのはとてもうれしい。これを機に、さらに活躍できるように頑張りたい」。一方の出口は「悔いが残る内容になりましたが、自分の足りないところが分かりました。こういう舞台にまた立てるように頑張りたい」と、敗戦の弁を語った。

 第2局の終了後、出口は後日に藤井との練習将棋を所望するためか、携帯電話の番号を聞いていた。

 それから半年後の2019年3月。出口は三段リーグで14勝4敗の成績(1位)を挙げ、四段に昇段して23歳で棋士になった。新人王戦第2局で用いた角換わりの戦型で、勝ち星を重ねたという。なお藤井との練習将棋が実現したかどうかは不明である。

 出口の名前の「若武(わかむ)」は、父親が好きな漢字の「若」と同じく母親の「夢」を合わせて、当初は「若夢」の予定だったが、画数占いで良くないことから変わったという。勝負師らしい名前である。

藤井五冠は「手ごわい挑戦者」と感じている

 出口は今期叡王戦の「五段戦」で、古森悠太五段、本田奎五段らに4連勝し、本戦トーナメント(16人)に進出した。そして、A級棋士の斎藤慎太郎八段、佐藤天彦九段らに3連勝した。挑戦者決定戦では服部慎一郎四段に勝ち、タイトル戦の挑戦権を初めて得るとともに六段に昇段した。服部との将棋は苦しい形勢がずっと続いたが、懸命に頑張り抜いて逆転勝ちを果たした。

【次ページ】 藤井五冠にとって初の「後輩相手のタイトル戦」

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