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フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
号泣するワリエワ15歳に「理由を言いなさい!」と激怒…ロシアのコーチ・エテリの正体とは?「極度のマスコミ嫌いで謎が多い」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byJMPA
posted2022/02/18 17:04
フリーではまさかのミスを連発し、総合4位となったワリエワ。演技後にエテリは彼女を糾弾した
マスコミ嫌いで、ロシアの媒体以外にはほぼ出ない
トゥトベリーゼはその後コーチとして、テキサス州サンアントニオで活動を始めた。当時13歳で彼女の指導を受けたというアメリカ人の女性は、当時から厳しいコーチで大会中は水を飲まないよう指導していたが、「泣くほど厳しいというほどではなかった」とワシントンポスト紙に語っている。アリーナ・ザギトワは平昌オリンピック開催中は水を飲まずにうがいをするだけにとどめたと告白しているので、これはトゥトベリーゼがロシアで身に着けた指導ポリシーの一つなのだろう。
ロシアに帰国したトゥトベリーゼが脚光を浴びたのは、ソチオリンピックで団体戦金メダルに貢献したユリア・リプニツカヤのコーチとしてだった。
それから現在まで、多くの女子のトップ選手たちを育て続けてきたが、未だに彼女の人物像が謎に包まれているのは、筋金入りのマスコミ嫌いであるためだ。
一世代前のロシアの名伯楽たち、タチアナ・タラソワ、アレクセイ・ミーシン、タマラ・モスクビナなどは、メディアと友好関係を築くことを重視し、時には自分たちの生徒を守るために矢面に立って、積極的に記者たちの前でコメントをした。
だがトゥトベリーゼはごく限られたロシアの媒体を除くと、報道陣の取材に応えることはほとんどない。その姿勢は、リプニツカヤの指導者として名前を知られるようになった当時も今も変わっていない。
今回のワリエワのドーピング事件でも、彼女の口からもっと真摯な言葉が報道関係者に伝えられていたなら、世間の目もだいぶ異なったのではないかと思う。
選手は怯えながら食事…正常な状態ではない
筆者は彼女のアシスタントコーチ、ダニル・グレイヘンガウスを3年前に個別取材した。その際に彼は「エテリは傍から見ると怖い人に見えるかもしれないけれど、身近にいる我々にとってはそうではないんです」と語った。
だが果たして、彼女の生徒たちは彼の意見に同意するだろうか。
某ISU関係者から直接聞いた話だが、2021年のNHK杯でダリア・ウサチョワが選手専用のカフェテリアから出てきたところでその関係者とばったり会うと、顔面を蒼白にして「エテリも一緒なの?」と聞いたのだという。
リプニツカヤはソチオリンピック中にプロテインシェークなどの液体食のみしか口にせず、その後拒食症を発病して競技から引退した。
ウサチョワはあきらかに自分がカフェテリアで食事をしたことを、トゥトベリーゼに知られたくなかったのだろう。食事をしたために顔色を変えるほどコーチを怖がるというのは、正常な状態とはいえない。トゥトベリーゼはこうして恐怖政治を強いてきたのだろうか。
ウサチョワは結局NHK杯の公式練習で怪我をして、棄権することになった。
《後編に続く》
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