フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「このスポーツは足し算式になってしまった」フィギュア元女王・佐藤有香が語るジャッジへの本音…日本女子の未来に希望がある理由
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAkiko Tamura
posted2022/01/20 11:01
元世界チャンピオンであり、現在はアメリカでコーチとして活動している佐藤有香さん
「このスポーツは足し算式になってしまった」
北京オリンピックではロシア女子が有力視されている一方で、ロシアの若い女子はメダルを取ってあっという間に消えてしまうという批判も聞かれる。シニアに上がる年齢を引き上げるべきという意見もあるが、佐藤氏はどう感じているのか。
「もちろん若い選手が大技をこなしてすごい点数を出し、素晴らしい結果を出すということには敬意しかないんですけど、パフォーマンスをするということも含めて見た場合、少し悲しいなと思います」
言葉を選びながらそう語る佐藤氏は、現役時代は決して早熟なジャンパータイプではなく、スケーティングの質の高さで「スケーターの中のスケーター」と評価された選手だった。
「どんなに若くて素晴らしい選手でも、大会の数をこなし、年数をこなしていったところで熟した演技が見られると信じている。最近でいえば、宮原知子さんのようなああいった味のあるバランスの取れた演技。若い選手がいくらコンポーネンツで9点、10点に近い点を出しても、本当に宮原さんのような演技、クオリティと比較できるかと言ったら、全然比較できないと思うんです。このスポーツが足し算式になってしまったがゆえに、その辺はもう関係なくなっている」と佐藤氏は、穏やかな言葉ながらもはっきりと主張した。
現在のジャッジの採点への本音は…
本来は技術点とコンポーネンツ/演技構成点の2つは、別々に評価されるべきものとして設置された。だが高度なジャンプを降りる選手は、コンポーネンツも底上げされてしまう、という批判はこれまで何度も各国の関係者から耳にしてきた。
「どこまで行ってもスポーツとして勝ちは勝ちなんですけど、全体のバランスとして見た場合、もう少しエッジワークとかパフォーマンスのクオリティとかをもっと見てもらえたらいいな、と……。古い考えで申し訳ないんですけれど」
実際のところ、きちんとエッジワークの質の違いなどを自信を持って評価できるジャッジばかりではない。
「それが今のフィギュアスケートの現実であるので、仕方がないのでしょうか。先日行われた全日本選手権は非常に高度な戦いで、私は個人的に感動しました。でも感情抜きでロシアの選手たちと比べてみると、果たして日本勢の何人が試合で対等に戦えるのか、現実的にちょっと厳しいものはあります」
だが日本の未来には、希望があると佐藤氏は強調する。
「演技のクオリティ、スケートのクオリティとしては、私の意見ではロシアの選手より日本勢のほうがしっかり滑っている。すでに樋口新葉さんが3アクセルを試合で成功させられるようになっていますし、すぐ後の世代の若い選手たちは4回転を跳ぶ準備ができているようです。今の日本のトップ選手のような演技、エッジワークのクオリティも持ち合わせていて、なおかつ4回転、3回転半を日常的に組み込める選手がいずれ出てくるんじゃないかと期待しています」