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「人が踏んでも壊れません」Jリーグの“選手交代ボード”が44万円(税込み)もするワケ《驚くべきこだわり》
posted2022/01/02 11:02
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
J.LEAGUE
コロナ禍でのJリーグ観戦で、よく目にするようになったギアに「選手交代ボード」がある。1チーム3人から5人という交代枠の拡大に伴い、頻繁に登場するようになった。
ボードはまた、アディショナルタイム(AT)の表示も担う。交代枠の拡大や飲水タイムの導入により、ATは以前より長くなった。ATの重要性が増したことで、終了間際もボードには多くの視線が注がれている。
Jリーグで使用される選手交代ボードは、株式会社モルテンの「QF0030」税込み44万円。思わずのけぞる値段なのは、観客の多い試合に用途が限られるため、大量生産に向いていないという事情がある。だが、尋常ではない細部へのこだわりも無視できない。例えば開発過程では75cmの高さから落下させる、人が思い切り踏みつけるといったテストが飽きるほど繰り返された。スポーツ事業本部技術開発統括部の相田靖之さんは「見た目以上に頑丈です。踏んでも壊れません」と胸を張る。
モルテン社の選手交代ボードは1999年からJリーグに導入され、2014年にデビューしたQF0030が3代目となる。
インとアウトを同時に6セットまで表示
3代目最大の売りは視認性。2代目は投入選手と退場選手の背番号を別々に出していたが、3代目では同時に掲示できるようになり、インとアウトがひと目でわかるようになった。仮に『10(赤)6(緑)』と出た場合、モルテン社と地元を同じくするサンフレッチェ広島なら、「森島司に代わって青山敏弘」となる。
コロナ禍のJリーグでは、2チーム同時に3人ずつ代わるという大人数の交代も珍しくない。インとアウトを別々に表示していては、時間がかかる。インとアウトを同時に、メモリー機能によって6セットまで表示する3代目は、withコロナの時代を先取りしていた。
スタジアムで試合観戦をする機会があったら、ボードに出る数字に目を凝らしてほしい。数字を示すのは、どんな時間帯や天候でもくっきり映えるLEDライト。細かなドットで表示される数字の書体にもこだわりがある。
「例えば“1”は一本の縦線にするのではなく、上部左側のドットをひとつ光らせることで、より“1”とわかるよう工夫しました。選手や審判、お客さんが誤認せず、すぐわかるよう、0から9まで気をつけて数字を作りました」
スポーツ事業に携わって60余年、妥協を許さぬ仕事をしてきたモルテンの3代目ボードは、淘汰の激しいコロナの時代にもしっかりとJリーグの現場を支えている。