この「脚質転換」は、田原がトップガンの“声”に耳を傾け、決断したものだった。

　前年の春ごろから、トップガンは、テンにモタつくようになっていた。ゲートを出てからの十数完歩、背中を伸ばし切って走るからだ。だからといって、押してポジションをとりに行くと掛かってしまう。

「おれは、前に行こうと思えば行ける。けれども、行くとさらに前に行きたくなって、苦しいんだ」

　それがトップガンの“声”だった。

　ならば、行かせなければいい。

　田原は、この阪神大賞典の序盤、トップガンがいいリズムで背中を伸縮させるまで50mほど待ってやった。すると、自然に位置取りが最後方になった。それが結果として、鮮やかな「脚質転換」になった、というわけだ。

　しかし、周囲の人間たちは、リスクのある最後方からの競馬をよしとしなかった。管理調教師の坂口正大は「天皇賞では乗り方の指示をさせてもらうかもしれません」とインタビューで語った。

名コンビの集大成となった97年の天皇賞・春

　そして次走の天皇賞・春。1番人気は横山典弘のサクラローレル、2番人気がトップガンで、3番人気は武のマーベラスサンデーだった。「敵失」を期待できる相手ではない。

　田原は腹を括った。前走同様、序盤はトップガンのリズムで走らせ、前には行かなかった。他馬を先に行かせ、道中は中団の内に待機。エネルギーを溜めたトップガンは、最後の直線、外から凄まじい伸びを見せ、サクラローレルとマーベラスサンデーを並ぶ間もなくかわして、勝った。

　勝ちタイムは3分14秒4。従来の記録を2.7秒も更新する、当時の世界レコードのおまけつきだった。

　ジャパンカップを最大目標に据えて調整されていたが、左前脚に浅屈腱炎を発症し、引退。種牡馬となった。

　トップガンは、「逃げ馬」だとか「先行馬」といった、既存の「型」にはまるような馬ではなかった。ずっと自分だけの強さを持ちつづけ、存分に発揮する機をうかがっていた。

　それを引き出したのが、田原成貴という、騎手としても、表現者としても素晴らしい才能を持った希有な存在であった。

　田原成貴とマヤノトップガン。大舞台が似合う、名コンビであった。

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