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ダルビッシュの快投と混戦のナ・リーグ西地区。大補強パドレスと穴馬ジャイアンツの首位争いに本命ドジャースが絡んで温度急上昇
posted2021/05/08 06:00
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
ダルビッシュ有の好調が続いている。3勝目をあげた4月30日の対ジャイアンツ戦でも、6回3分の1を投げて、1失点、12奪三振。初回こそバスター・ポージーに技ありの本塁打を許したものの、そのあとは見応えたっぷりの投球術を駆使し、観客を楽しませてくれた。
とにかく、三振を奪うときのウィニングショットが多彩だった。3つ目のストライクを取った際の12個の決め球を振り返ると、スライダーとツーシームが3個ずつ、スプリッターとナックルカーヴが2個ずつ、フォーシームとカッターが1個ずつとなる。
なかでも圧巻だったのは、6回表、無死二塁に走者を背負いながら、ポージー、ブランドン・ベルト、アレックス・ディッカーソンを三者連続三振に切って落とした場面だ。ポージーにはスプリッター、ベルトには凄い落差のナックルカーヴ、ディッカーソンにはツーシーム。見ているこちらが、思わず拳を握りしめたくなるような奪三振ショーだった。
と書くと、ダルビッシュが快刀乱麻の投球を演じたように聞こえるかもしれないが、この日の戦いは、けっして楽ではなかった。ダルビッシュの顔にも、苦痛の表情がしばしば浮かんだ。6回3分の1で107球を投げたことも例証のひとつだが、7回表に四球を連発して1死満塁のピンチを迎えたときなどは、顔が青ざめているかに見えた。得点は3対1でパドレスのリード。
ダルビッシュは、横手投げ左腕ティム・ヒルのリリーフを仰いだ。ジャイアンツは代打にダリン・ラフを送った。ラフは、右翼ポール際の客席に飛び込む大ファウルを放った。逆転の満塁弾かと思わせる一撃だったが、いったんは本塁打とコールされた判定が覆された。ヒルは、ラフと次打者マイク・トークマンを連続三振に打ち取って虎口を脱した。ヒルはマウンドで吠え、ベンチで戦況を見守っていたダルビッシュも大声で吠えた。
三つ巴の熱い首位争い
ここまで試合が盛り上がったのは、パドレスとジャイアンツが、ナ・リーグ西地区できびしい首位争いを演じているからだ。もちろん、大本命ドジャースもそこに絡んでいるから、この地区はいまや三つ巴状態といえる。
それにしても、ジャイアンツが……と思う人は少なくないはずだ。開幕前、ジャイアンツの評価はけっして高くなかった。補強は芳しくなく、若手の進境もさほど見られなかったからだ。ポージーやベルトやエヴァン・ロンゴリアにもはや大化けは期待できないし、エース格のマディソン・バムガーナーがダイヤモンドバックスへ去ったあとの投手陣にも、柱になる存在が見当たらない。