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【ウッズも復帰を】「死亡」の誤報も出た大事故から“歴史的なカムバック”…ベン・ホーガンの不屈の精神とは?
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byGetty Images
posted2021/03/03 11:02
バスと正面衝突する大事故に遭いながらも、不屈の精神でカムバックしたベン・ホーガン。ウッズは事故の2日前、ホーガンの銅像があるリビエラCCを訪れていた
事故後の53年にトリプルクラウン
驚くべきはさらにその後の1953年が、キャリアにおけるベストシーズンになったことだった。出場した7試合(ツアー非公式含む)のうち5勝をマーク。うち3つはメジャーのマスターズ、全米オープン、全英オープンでの優勝だった。もうひとつの全米プロは全英と日程が重複していたこと、また当時のマッチプレー方式をホーガンが好まなかったことから出場しなかった。ワシントンポストによると、そもそも1日36ホール以上プレーすることもあるマッチプレーは、事故の後遺症から戦えなかったという。
長い歴史を紐解いても、1年のうちにメジャー3勝を達成した(トリプルクラウン)のはこの年のホーガン、そして2000年のウッズだけだ。
事故の後、最終的にホーガンはメジャー6勝を含むPGAの大会で11勝を挙げた。その他、ワールドカップも含め公式競技以外の試合でも優勝した。
まずはゴルフよりも日常を取り戻すこと
いまのところ、ウッズのカムバックへの道のりは険しいと言わざるを得ない。事故当時のホーガンは36歳。そしてウッズは45歳で、腰にも長年のけがを抱えていた。医療技術は半世紀以上前よりもずっと優れたものになっていることは間違いないが……。
NBCニュースのメディカルコメンテーター、ジョン・トーレス医師は米ゴルフチャンネルの番組で「まず望まれることは、彼が愛娘の結婚式でより添えるように再び歩けること。そして家族や子どもたちと思うように遊べるようになること。それから、最高のシナリオがかつてのようなレベルでゴルフに復帰すること」と述べた。
そもそも、ウッズは2019年のZOZOチャンピオンシップで優勝してからは目立った成績を残せていなかった。事故直前も腰への心配から4月のマスターズは出場することすら自身も懐疑的で、仮に東京五輪の出場権を手にすることなどがあれば、それこそ奇跡としか言いようがないポジションにいた。
いまはまさに生きていること、そして他に被害者が出なかったことがありがたく、完全復活への期待を膨らませることが、なんだかあまりに楽観的なようで躊躇われる。