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「登山家が瞬間冷凍で亡くなっています」“自殺的行為”なのに…なぜ栗秋正寿は冬のアラスカ登山に挑み続けた?
posted2021/01/30 17:05
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Masatoshi Kuriaki
――アラスカ通いを続けていたときは、今頃、アラスカの山中にいたんですね。
栗秋 そうですね。だいたい冬の間、2カ月から3カ月弱は山に入っていました。最長は2010年のハンター登山のときで、83日間、入山していたことがあります。
――登山の方法は大きく分類すると「アルパインスタイル」「カプセルスタイル」「極地法」に分かれます。ざっくり言うと、「アルパインスタイル」は軽装備で短時間で登る方法で、それとは対極にある「極地法」は大量の荷物を何回かに分けて荷揚げし、時間をかけて少しずつ高度を稼ぐ方法です。昔の日本の登山隊もよくこの方法を採用していました。「カプセルスタイル」はその中間に位置する方法で、「アルパインスタイル」ほど軽装備ではないけれど、「極地法」ほど大がかりでもない。近年は、成功率が高いこともありアルパインスタイルが主流ですが、栗秋さんはどちらかというと古典的なカプセルスタイルを貫きました。
栗秋 冬のアラスカ山脈は天候が猫の目のように変わります。山頂付近ともなれば、天候が穏やかになるのはトータルで月に数日から1週間程度でしょう。なので、停滞は日常茶飯事。短い日数で一気に、というのは難しいんです。アルパインスタイルだと、登山中に天候が急変しビバークを余儀なくされた場合は、命取りにもなりかねません。私の登山の成否は、登山技術以上に、キャンピングスキルがものをいう。環境が厳しくなればなるほど、停滞が長引けば長引くほど、どうやって寒さをしのぎ、どうやって食事をとるかが重要になってくる。そこが一般的な登山のイメージとは大きく違うところです。いいときだけ動いて、ダメなら待つ。マイナス要因が1つでもあったら、その日は休む。だから、何をしに行ってるの、って聞かれたら、待ちにいってるという感じですね。待つことが仕事なんです。
「お湯をつくるだけで1日4、5時間」
――さまざまな登山家の方と栗秋さんが目指した「アラスカ三山の冬季単独登頂」について話をしたことがあります。おおむね反応は決まっています。すごい、と。ただ、失礼ながら、「変人」でなければできないみたいな言い方をします。