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「総合力の高いチームがW杯で勝てる」 コロナ禍の欧州遠征で日本代表が得た“2戦以上の価値”とは
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJFA/AFLO
posted2020/10/30 17:03
試合前、日本のファンとリモートハイタッチをする久保建英。欧州遠征では様々な工夫と試行錯誤がなされていた
カメルーン戦後の、驚きの光景とは
約1年ぶりの代表戦となったカメルーン戦を終えた直後のことである。
日本代表メディアオフィサーの多田はいつもどおり、試合後のテレビ中継用のインタビューに登場してもらう選手に声を掛けるため、ピッチに入った。
普段であれば、多田が労うと、選手たちは試合中の真剣な表情とは打って変わって落ち着いた雰囲気で「お疲れさまです」などと笑顔を見せるが、この日は様子が違った。
まるで、まだ試合中であるかのような眼差しで、高揚気味に試合を振り返り、サッカー談義をしているのだ。それも、ひとり、ふたりではない。あちらこちらで、いつまでも。
「僕がいることに気づいていたと思うんですけど、もう止まらないといった感じでした。あのシーンがどうとか、後半のやり方は良かったとか、互いのサッカー観をぶつけ合っていた。そんな様子を目の当たりにして、それだけ彼らは代表戦に飢えていたんだな、と感じました」
そんな選手たちの姿を見て、多田は改めて思わずにはいられなかった。
無事にゲームができて良かった。選手たちに試合をやらせてあげられて、本当に良かったな、と。
それは、この激動の2カ月に関わったすべての者に共通する思いだったに違いない。
「この期間があったからこそ」
オランダ合宿の初日、「待ちに待った代表戦。選出されてすごく嬉しいし、日本代表として再び活動できることが心の底から嬉しい」と喜びを素直に言葉にしたキャプテンの吉田麻也は、2試合を戦い終えたあと、改めて日本代表への思いを口にした。
「新型コロナウイルスの影響でしばらくの間、代表の活動が止まった。その間、日本代表の存在や代表に入ることの意味を考える時間がたくさんあって、やっぱりここで結果を出したい、日本サッカーの新たな歴史を築きたいという強いモチベーションを抱くようになった。この期間があったからこそ、改めてハングリーになれたんじゃないかと思います」
試合後のピッチで見られた光景は、選手たちが抱いた代表活動再開の喜びや新たなモチベーションの発露だったのだろう。
多くの困難を乗り越えてこの舞台を用意した人間と、その舞台を価値あるものにした選手たちが、日本代表の歩みを繋げた。
そして、新たな一歩を踏み出したのである。