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日本のサイドバックよ、香車+桂馬&成金の動きを! 止まってクロス、マイナス、斜めに。
posted2020/09/06 17:00
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph by
Takuya Sugiyama
サイドバックって、香車ですか?
日本のサッカー界を見ていると、そんな疑念が渦巻いてくる。
念のために申し上げると、香車とは将棋の駒の一種で、俗に「槍」とも呼ばれる。どこまでも真っ直ぐに進める駒だ。サイドバックも、あらかじめ動き方が定められているなら話は別だが、無論、そうではない。
しかしながら、ほとんどのサイドバックが判で押したように同じ動き方をするのは、いったい、どういうわけか。それが「最も効果的」と信じられているからかもしれないが、観る側には一種の「思考停止」に見えて仕方がない。
いや、日本のサイドバックはよく走る。ハードワークという言葉は、彼らのためにあるのではないか、というくらいに。だが、残念ながら「労働生産性」に乏しい。特に攻撃面において。縦一直線に攻め上がる数は多くても、それが決定機の演出につながりにくい。
日本代表がアジア勢と対戦する際は、それが余計に際立つ。日本の攻める時間が長いからだ。香車のように縦一直線に突き進むところまではいいが、その先がいけない。何がイケていないのか――そう、クロスだ。
質の高いクロスは、止まって蹴る。
とにかく、質(精度)が悪い。点につながるかどうかはクロス次第と言われるが、球をあさっての方向に蹴っていては、ゴール前に味方が何人いても点にはならない。味方に届かないクロスを蹴った張本人の照れ笑い苦笑いが、テレビ画面に大映し――の繰り返しでは、質の向上は望めないだろう。
気の毒に思う面もある。40、50メートルも全力で走った上に、良質のクロスまで求められるわけだ。それに比べると、中へ絞り、サイドバックの道を空けるサイドハーフはお気楽、極楽である。
止まって、蹴る――。
質の高いクロスを蹴るための手っ取り早い方法だろう。希代のクロッサーだった往年のデビッド・ベッカムを思い出してほしい。数々の見せ場をつくり出したピンポイントクロスの多くは「止まって蹴った」ものだ。まるでゴルフのティーショットのように。全速力で走っていては「狙い済ました」クロスを蹴る余裕などないだろう。ベッカムにその余裕(時間と空間)を与えるために、味方がせっせと走ってベッカムのマークをはがしている。伝説のクロスは仲間たちとの「共作」でもあった。