マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
弟は巨人の期待の星、兄も実力十分。
湯浅翔太に感じる力ともったいなさ。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHiroki Kubo
posted2020/07/07 07:00
輪郭、顔立ちなどはどこか弟と通じる雰囲気もあるが、湯浅翔太は1人の野球選手としてプロを目指している。
プロを目指すなら丸くなってはいけない。
プロ1年目で24歳になるのだから、求められるのは「即一軍」の能力だ。上手いうえに、何かビックリさせてくれる要素がないと、プロの目は高校生のほうに移ってしまうのだ。
バッティングだって、そうだ。
ヒットになりそうもないボールは最初から追いかけず、ヒットになりそうなボールを逃さずしっかり捕まえる。その「打ち方」に文句はない。
ワザありのセンター前2本に、あわや大アーチの一振りに四球が2つ。結果だけ見ると完璧にも見えるが、もしも熱くプロを望むのなら、最後の打席では「ムチャ振り」が見たかった。
オレ、ほんとはこんなに振れるんですよ!
そんな叫びが聞こえるような、タイミングピシャリのフルスイングを見たかった。
結果は、たとえ内野フライでもよい。その舞い上がった打球の高さで、本人の意欲とヘッドスピードが伝わればよい。狂気と殺気を感じさせてほしかった。
人の行動は歳を重ねるごとに丸くなっていくものだが、プロを目指す野球選手が同じでは、あまりにももったいない。
「最近は、弟がらみで……」
「最近は、ボク自身のことじゃなくて、弟がらみで取り上げられることが多くて……」
だからどうだ、とまでは言わない。
悔しいとか、腹立たしいとか、言えばいいのに。
お察しの通り、読売ジャイアンツの新鋭内野手・湯浅大選手の兄上である。
「同じ内野手で兄弟なんですけど、背格好も、ユニフォーム姿も、プレースタイルも、ぜんぜん違うので、比べられても……」
やっぱり最後まで言わなかった。
その「……」のところに漂う、なにかピリピリッとしたもの。そこが、殺気に変ってくれば。
もっと誉めてあげたいと思っていたのだが、結局は、口うるさい「お節介アドバイス」になってしまったようだ。