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J2降格寸前ジェフが11分で4得点。
フクアリの奇跡と巻誠一郎の男気。
text by
原山裕平Yuhei Harayama
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/04/29 20:00
サポーターに向けて魂のガッツポーズを見せる巻誠一郎。崖っぷちだったジェフを献身的に支えた。
FC東京も勝点3が欲しかった。
この1点で、フクアリの空気が完全に変わったのを覚えている。黒々とした雲の隙間から、一筋の光が差し込み、絶望は希望へと変わった。何かが起こりそうな予感が、確かにあの時にはあった。
その3分後、巻のポストプレーを受けた谷澤が豪快に右足を振り抜き、同点ゴールをマークする。ただし、引き分けでも降格が決まる千葉にとっては、もう1点がどうしても必要だった。
ここで、もうひとつの幸運が浮かび上がる。それは対戦相手がFC東京だったこと。翌年のACL出場権を得るために、彼らも勝点3が必要だったのだ。
勝つしかないのは相手も同じ。この状況が、千葉にとってはおあつらえ向きだった。リスクを負って前に出てくる相手に、得意のカウンターをお見舞いする。80分、エリア内で倒されたレイナウドが、自らPKを蹴り込み逆転に成功すると、85分にはスルーパスに抜け出した谷澤が独走して4点目をマーク。得点の匂いがまるで感じられなかった千葉が、新居のゴールからわずか11分間で4ゴールを奪ったのだ。
まさに、奇跡の11分間だった。
目を真っ赤にして語った巻の言葉。
同時刻に行われていた磐田と東京Vはともに敗れ、勝点3を積み上げた千葉は15位に浮上。誰もが予想もつかない劇的なシナリオを描き、フクアリの熱狂は最高潮に達した。
「甘くないだろうとは想像していたけど、それをはるかに超える厳しさだった」
試合後、巻は目を真っ赤にさせながら、苦しかったシーズンを振り返っている。
「点を取らなくちゃいけないプレッシャーもあったし、シーズン終盤はあと勝点いくつ取らなければいけないとか、寝る前にそういうことばかりを考えていた。家族にも迷惑をかけたと思う。でも、そのプレッシャーから逃げちゃいけないと思っていた」