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<ロッテ加入決定・再録記事>
見過ごせない“土の上の鉄人”。
鳥谷敬の記録に見る本当の凄さ。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2020/03/10 13:35
鳥谷は2004年から通算1745試合で遊撃を守って125失策。遊撃部門のゴールデングラブ賞を4度獲得した。
納会の終わりごろ、鳥谷の姿がない。
まだアメリカ合衆国大統領がブッシュ氏で、日本の首相が小泉純一郎氏だった2004年から、1試合も休まずにグラウンドに立っていた。
あるシーズンのオフ、選手たちが集まっての納会、つまり年に1度の“打ち上げ”の席、宴の終わりごろに鳥谷が姿を消したという。この日ばかりはすべてを解放し、酒に酔えるという日である。
同席していたある選手がどこに行ったのか、と不思議に思っていたら、しばらくして戻ってきた。あとで判明したことには、その時間、鳥谷はジムへウエートトレーニングをしに行っていたのだという。何もこんな時までやらなくてもいいだろうに……。プロにすらそう思わせる頑なさがあった。
こういう類の逸話にあふれた15年間の中で、特筆すべきは、鳥谷が立っていたのが遊撃というポジションであり、かつ、土の上だったということだろう。
12球団本拠地の内野で唯一の土・甲子園。
現在12球団の本拠地で内野が土なのは、タイガースの本拠地・甲子園球場だけである。
鳥谷が記録をつくった2000年代は人工芝全盛の時代だ。東京ドーム、神宮球場、横浜スタジアム、ナゴヤドーム、そして、広島市民球場も2009年から天然芝のマツダスタジアムにカープの本拠を譲った。時代とともに、内野が土のグラウンドというのは姿を消していった。高校球児の聖地をのぞいて……。
天然芝、人工芝、土という3種類のグラウンドが内野手にとってどう違うかと言えば、それは土の上ではごまかしがきかない、逃げ場がない、ということではないだろうか。
例えば、捕球時、人工芝の球場では深く守っていても打球が死ぬことなく転がってくるため、「前」への心配はさほど必要ない。天然芝では打球は殺されるが、イレギュラーへの不安は少なくて済む。土の場合はこの両方のリスクに対処しなければならない。
また、送球時、三遊間の深いところへの打球を捕った際、芝のグラウンドであれば、一塁へワンバウンド、ツーバウンドの送球に逃げることもできるが、土の場合にはイレギュラーのリスクがあるため、ノーバウンドで投げるしかないのだ。