スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
「先発はクボ+10人であるべきだ」
久保建英初得点と現地タクシーにて。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byDaisuke Nakashima/AFLO
posted2019/11/12 20:00
ビジャレアル守備陣が立ち尽くし、主審も口をあんぐり。久保建英が叩き込んだスペイン初ゴールの価値を感じさせる。
「注目されるのは仕方のないこと」
全3得点に絡む活躍で勝利の立役者となった試合後、久保はアスレティック・ビルバオとのホームデビュー戦以来となる記者会見を行った。その中で彼は、若くして大きな注目を集める自身の境遇について次のように語っていた。
「注目されるのは仕方のないこと。大きなプレッシャーを感じる時もあるけど、そういうものとして受け入れなければならない」
レアル・マドリー移籍が決まった6月以降、久保はスペインでも日本と同等、もしくはそれ以上に注目を集める存在となった。
「彼は素晴らしい選手。さらに良くなっていくはずだが、重荷を背負わせるべきではない」
18歳のルーキーがプレッシャーを感じぬようにしているモレノ監督の配慮とは裏腹に、当地の人々は1部残留を担う救世主的存在として18歳の日本人選手に期待を寄せている。
「信頼もクソもない。あいつは……」
先日マジョルカでタクシーに乗った際、運転手から「なぜクボは先発じゃないんだ?」と質問されたことがあった。
こちらが「監督の信頼を勝ち取る必要がある」と返すと、運転手は「信頼もクソもない。あいつはマジョルカ最高のタレントじゃないか。先発はクボ+10人であるべきだ」と言っていた。久保が初めて出番なしに終わったオサスナ戦後の夜のことだ。
そして出場10試合目にして、久保はようやく1つ、彼のような地元ファンの期待に応えることができた。
「俺は前から言っていたんだ。先発はクボ+10人だってね」
すっかり冬模様となったマジョルカの町を走りながら、きっとあの運転手は得意げな顔で乗客に話しかけていることだろう。