スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
「先発はクボ+10人であるべきだ」
久保建英初得点と現地タクシーにて。
posted2019/11/12 20:00
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
Daisuke Nakashima/AFLO
第4審判が掲げる電光板に「26」の数字が表示されると、体を丸めて寒さに抗っていたスタンドの人々が一斉に立ち上がり、拍手と共にその名を呼びはじめた。
「クーボ! クーボ!」
主審に急かされ、小走りでピッチを後にした若き教え子の胸に、ビセンテ・モレノ監督が右の拳を押し付ける。後にビデオで確認すると、長身の指揮官はこう言っていた。
「ESO ES(それでいい)!」
11月10日、パルマ・デ・マジョルカ。前夜から急激に冷え込み、雨と強風にも見舞われた日曜昼の一戦には、今季初めて1万人を下回る8174人の観客しか集まらなかった。
しかし、悪天候も顧みずチームを見守り続けた熱心なマジョルキニスタたちには、相応のご褒美が待っていた。
レアル・マドリー相手に金星を挙げた10月19日以来となる4戦ぶりの勝利、そして待ちに待った久保建英の初ゴールである。
初アシスト以降は苦しんでいた。
9月22日の第5節ヘタフェ戦で初アシストを記録して以降、久保は消化不良のプレー内容が続いていた。
チームが左サイド中心で攻撃を組み立てるため、右サイドで待っていてもなかなかボールが回って来ない。だからこそ、持った際には何かしなければという意識が強くなり、強引なドリブル突破を繰り返すようになってしまう。
チームが負けている時ならそれでもいい。問題はリードを保つべき時までそのようなプレーが目立つようになったことで、第11節オサスナ戦では加入後初めて出番がなかった。
中2日で臨んだ11月3日の第12節バジャドリー戦では5戦ぶりとなる先発の機会を得たものの、チャンスを生かせず。自身は2点を追う後半半ばに交代を強いられ、チームも0-3で完敗した。