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<「2019世界柔道」直前インタビュー vol.1>
兄妹で目指す金メダル。
posted2019/06/27 10:45
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Takuya Sugiyama
ともに厳しい勝負の世界に身を置き、ときに互いの存在を自らの力とし、兄と妹は世界一の地位へたどり着いた。そして彼らは、これからも互いに高めあい、頂点に立ち続けようとしている。
「天才」「逸材」……華麗な言葉とともに評されることは珍しくない。
それも無理はない。男子66kg級の阿部一二三(以下、一二三)は、輝かしい結果を積み重ねてきた。中学時代から全国大会を制するなど注目を集めると、高校2年生で出場したグランドスラム東京で、史上最年少優勝を飾る。
2017年は世界柔道優勝をはじめ、出場した国内外の大会すべてを制し、2018年には世界柔道連覇を果たした。成績もさることながら、背負い投げをはじめ、きれいな技で一本を獲る柔道が高い評価を得てきた。
ただ、本人は「天才とはぜんぜん思わない」と語る。
「言われることに関しては、別に何とも思わないですが、思ったこと、まったくないです。強くなりたいと努力してきたし、努力しないと強くなれないと思っていますから」
「阿部一二三は天才を超える」
今でこそ世界に名をとどろかせる一二三は、はじめから強かったわけではない。柔道を始めたのは6歳だが、小学生のときは全国大会に出場した経験はない。花開いたのは中学生になってからだ。2、3年生のとき全国中学校柔道大会で優勝したのである。
「小学生の頃から、勝ちたい、強くなりたい一心で練習していたからこそだと思います」
そんな足取りがあるからこそ、「努力してきたから強くなれた」と考えている。努力を大切に知る姿勢は、自分らしさを表現すると? と尋ねたときの言葉にも表れている。
「阿部一二三は天才を超える」
一二三が意味を説明する。
「僕は、『努力は天才を超える』という言葉が好きです。だから、阿部一二三は天才を超える、です」
自分を奮い立たせる存在もいる。
「すごい刺激をもらっていて、いるから負けられないという気持ちがある。僕自身も成長させてもらっている柔道家です」
一二三がそう語るのは、52kg級で活躍する妹の阿部詩(以下、詩)である。