伊東前監督も評価したエース候補。

　そういえば彼の肘の故障が発覚する前、プロ1年目の春季キャンプでも当時の伊東勤監督が「未来のエース候補」として岩下を高く評価していた。そういう意味でも早くから彼に一軍を経験させたいという想いがチーム内でも共通意識としてあっただろうし、“抜擢昇格”もある種、自然の流れだった。

　清水コーチが話を続ける。

「この世界ってそういうものがあると思うんです。魅力がある選手はこちら側も『使いたい』と思います。もちろんそれは僕だけじゃなく、井口監督もキャンプから彼を見ていましたし、鳥越ヘッドコーチも二軍の映像などを見ながら『やっぱり岩下はいい球投げるな』って言っていました。

　だからあのときもファームを担当していた川越（英隆）ピッチングコーチと、マサさん（小林雅英ピッチングコーチ）と鳥越ヘッドの3人で昇格のタイミングを話し合っていたと思うんです。実際にファームの映像を、タブレットなどを使ってよく見ていましたからね。そうした中で最後、決断を下したのはもちろん井口監督でしたけど、それだけのものがあったように感じています」

　秘めるポテンシャルと気持ちの強さは誰もが認めている。岩下への期待の高さが分かるエピソードだった。

忘れられない高校生時代の言葉。

　4年前、千葉ロッテ入団直後の彼から聞いた言葉を今でも忘れることが出来ない。

「まだ、自分はプロ野球選手ではないと思っています。僕が思うプロ野球選手って二軍で投げている選手ではなくて、一軍で戦う姿がテレビに映って、街を歩く子供でも顔を見ただけで分かる。そうなって初めて『プロ野球選手だ』って胸張って言えると思うんです」

　入団したての高校生が言うセリフじゃないと、そのとき感じた。

　今年、その想いを再確認すると彼はこうも続けた。

「今もその考えで間違いないです。一軍で投げたと言っても、まだ僕を知らない子の方が多いわけじゃないですか。（出身地の）石川県内と千葉ロッテを応援する数人しか僕のことを知らないと思いますよ」

　そう言って自嘲気味に笑った。

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