マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
2番に最強バッターを置くことへの
抵抗感と高揚感を歴史から考える。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/12/12 08:00
先制点が大事、とは野球界で何度も言われる。ならば最強打者をなるべく早い打順に置く手は一理ある。
野球はそもそもアメリカサイズだった。
破壊力ある打線のキーマンは、クリーンアップではない。送りバントを使わずヒット、いやむしろ望まれるのは、長打であっという間に1点、2点を奪ってくれる強力な2番打者である。
それほどに「2番最強打者」が攻撃に有効なら、日本の野球界はどうしてもっと前から、そうした攻撃手法を導入してこなかったのか?
そもそも野球の“サイズ”とは、野球が始まったアメリカの人々の体格や体力に合わせたものだ。
フェアグラウンドの広さにしても、ボールの重さ、大きさにしても、バットの重さ、長さにしても、すべてアメリカ人がプレーしていた「ベースボール」に“こっち”が合わせて始まった「野球」だから、体格や体力が格段に劣る日本人にとっては、実は手に余るものだったに違いない。
つまり、太平洋戦争が終わったあとも20年ほどは、日本の野球選手たちは、たとえプロであっても、実は“非力”な選手がその多くを占めていたのだろう。
打てない打者が多ければバントが増える。
それは、1960年代にプロ野球でレギュラーを張っていたメンバーの打率や本塁打数を調べてみれば一目瞭然である。
ほとんどの球団で、打率3割や2けた本塁打をマークしているのは、多くてクリーンアップの3人。下位打線になると、打率2割2~3分、本塁打になると5、6本の選手たちがレギュラーで出場していたのが実状であった。
そんな事情があったから、野球の戦法として、そうしょっちゅうランナーが出るとは限らないのだから、出塁した時は大事に二塁に送って……と、「2番打者」は送りバントの上手なつなぎ役になる。
今の言葉でいうと「スモールベースボール」ということになるのか。日本式の野球というスポーツの攻めの形態ができ上がってきたように思う。
しかし、体格とともに体力もアップして、レギュラーメンバーのほとんどがクリーンアップみたいなパワーと技術を身につけた状態ならば、2番に強力な打者を置いて相手に“1死”を与えることなくランナーを先の塁に進め、あわよくば得点まで奪ってしまおう。
当然の積極的発想である。