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日大アメフト部で優しさは罪なのか。
「潰せ」と「こいつ」と「坊主頭」。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKyodo News
posted2018/05/23 11:20
1人の選手人生が終わり、アメフトという競技のイメージも地に落ちた。この事態を避ける方法はなかったのか。
「優しすぎるところがダメなんだ」
「練習後、井上コーチから『監督に、お前をどうしたら試合に出せるか聞いたら、相手のQBを1プレー目で潰せば出してやると言われた。QBを潰しに行くんで僕を使ってください。と監督に言いに行け』と言われました。続けて井上コーチから、
『相手のQBと知り合いなのか』
『関学との定期戦が無くなってもいいだろう』
『相手のQBが怪我をして秋の試合に出られなかったらこっちの得だろう』
『これは本当にやらなくてはいけないぞ』
と念を押され、髪型を坊主にしてこいと指示されました」
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これでも、指導陣は「潰せ」という言葉の感じ取り方、受け取り方の違い、と言い張るのだろうか。ひとりの青年を追い詰めたことに、良心の呵責はないのだろうか。
そして、彼が退場後に泣いていたところを見たコーチは、こう言い放ったという。
「優しすぎるところがダメなんだ。相手に悪いと思ったんやろ」
この世界、いや、日大アメリカンフットボール部では、優しさは罪なのか。
これでは、やる気を失わせるだけだ。
厳しさと愛情は両立できるはずなのに。
宮川選手は会見で、高校から始めたアメリカンフットボールが、「とても楽しいスポーツで、熱中していました」と語った後、大学に入学してから厳しい環境に身を置くことで、気持ちが変わっていたと心情を吐露した。
「好きだったフットボールが、好きではなくなった」
この言葉は、重い。
厳しい環境でも、その競技を愛することは可能である。両立できる。
日大指導陣は、選手から競技に対する情熱と愛情を奪ってしまったのだ。