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羽生結弦、圧巻の演技と感動の輪。
平昌ボランティアも涙した熱狂。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2018/03/01 08:00
平昌五輪最終日に行われたエキシビション、リンクを去る間際に観客に向け「カムサハムニダ!」と叫んで感謝を伝えた羽生。
拍手、歓声、ボランティアまで……。
ボランティアの人たちが話しかけてきたとき、そんな1年前をあらためて思い出すことになった。そして羽生が平昌の地に足を踏み入れた後の熱狂を予感させことにもなった。
日本、韓国、そして他国の人々の高い関心。その中で2月11日、羽生は韓国入りし、16日にはついに試合の日を迎えた。
拍手、歓声、羽生がリンクに現れたときの現地の熱狂は忘れがたい。あまりにも完璧なまでの2分50秒が終わったあともそうだ。
その熱狂はフリーでも再現された。いや、フリーではそれ以上だったか。
記者席から見えたのは、リンクに見入るボランティアの人の姿だった。
入り口に立つスタッフは、本来、リンクというよりも扉に目を向けている。でもそのときは、役割を忘れ、リンクに熱中している姿が見てとれた。なかには涙をこらえ目頭を押さえる人もいた。
羽生の求心力は日本を越えていた。
韓国の人々も含め、数多くの視線が集中する先に羽生はいた。羽生の求心力は、日本を越えて多くの人を惹きつけていた。
その求心力を生み出したのは、むろん、羽生の圧巻の演技にほかならない。
昨年11月、NHK杯の公式練習中の負傷以来の過程を考えれば、感嘆のほかなかった。
治療とリハビリを経て回復を図り、短期間の練習で滑りを取り戻したのは、羽生ならでは、と思った。常人では成し遂げられなかっただろう。
そんな感慨は、フリーを終えての囲み取材や記者会見で羽生から語られた言葉に、打ち破られることになった。
韓国の地に足を踏み入れてから見せてきた表情、しぐさ、動作、公式練習での滑り、それらに対して抱いていた印象が覆る思いがした。
そして羽生の真骨頂をあらためて知ることになったし、その場に立ち会えたこと、その時間を忘れることはないだろう。