ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
村田諒太がついに、ついに世界王者。
次は「僕より強いチャンピオン」と。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2017/10/23 11:50
試合後の饒舌さも、村田諒太の魅力の1つ。電通、フジテレビへの言及も会場を沸かせていた。
凡戦もあった、満足できない試合もあった。それでも。
それでも全国にテレビ中継されたプロデビュー戦では東洋太平洋チャンピオンを2回TKOで下し、満点デビューをはたした。以来、電通など強力なスポンサーをバックに白星を重ねたが、本人の胸中は決しておだやかではなかった。
「デビュー戦から満足いくような試合はできなかった。本当にある程度納得できるようになったのは今年からです」
プロで通用するスタイルを模索しながら答えを見つけられず、凡戦も経験した。'15年11月のアメリカデビュー戦は自身が「最悪」という内容だった。
'17年に入り、ガードを固めて前に出るという本来のスタイルを貫く決意を固め、ようやく自信を手にした。とはいえエンダムとの第1戦の時点ではその自信も「半信半疑」。そして迎えたこの日の再戦。勝利の瞬間、こみ上げるものがあったのは当然だろう。
「僕よりも強いチャンピオン」に勝ちに行く。
大きな期待を背負ってプロのリングに飛び込み、多大なサポートを受けた村田にとって、世界タイトル獲得はいわば“ノルマ”だったと言えるかもしれない。ノルマを達成した村田は、今後どこに向かうのか。
「ボクシングを知っている人なら分かると思いますけど、僕よりも強いチャンピオンがいますので、そこを目指していきたい」
強いチャンピオンとは、村田が獲得したタイトルの上位に位置するWBAスーパー王座をはじめ、3団体のベルトを保持するゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)らのことを指している。
アメリカの老舗ボクシング雑誌『リング』が選定するミドル級のランキングでは、エンダムが7位で、村田が8位。リング誌のランキングは目安にすぎないとはいえ、まだまだ上がいるのはボクシングを知る者ならだれもが分かっていることだ。
帝拳ジムの本田明彦会長は今後の村田について「1回チャンピオンになってからチャレンジするわけですから、精神的には全然ラクだと思いますよ」と語った。「負けられない」というノルマから、「あのステージに立ちたい」というチャレンジへ。名実ともに日本ボクシング界をけん引する立場となった村田の新たなチャレンジが始まろうとしている。