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女性騎手最多の11勝に到達!
藤田菜七子の「あっという間」。
text by
川村由莉子(Number編集部)Yuriko Kawamura
photograph byYuki Suenaga
posted2017/10/17 08:00
女性騎手の記録を次々と塗り替えている藤田菜七子。11勝は騎手全体でも決して低い勝利数ではない。
強風で馬が暴れても、慌てずにさとす。
翌日、2番人気の馬、ファイアプルーフに騎乗とあって歓声もひと際大きかった第2レースは5着だった。客席からもため息がちらほら聞こえてきた。期待されているからこその反応だろう。
3日間開催の次こそは! と意気込んだ翌週は、なんと関東に台風直撃のニュースが流れっぱなし。幸い3日間とも無事開催となったが、日曜は一日中雨模様。風も強い。こんな日、馬はどんな状態なのだろう。レース前のモニターを見つめていると、なかなかゲートに入らず係員にロープで誘導されても暴れ続ける馬がいる。藤田騎手が乗る馬だ。だが彼女は一切の動揺を感じさせず、「いい子だからおとなしくゲートに入って」とでもいうかのように、落ち着き払って馬をさとしていた。
レースは無事にスタートしたものの、11着。この日は更に3鞍に乗り、15、7、9着。その翌週もなかなか勝利に恵まれない。30日の第6レースは、白毛のカスタディーヴァに騎乗した。斤量はわずか47kg。これはJRAでは約38年ぶりのことだった。スタートは良かったものの、直線で伸びず結果は10着。勝つことの難しさを否応なく見せつけられた日であった。
「今までと変わらず、ひとつひとつのレースを大事に乗っていきたいです。その中で年間2桁勝利という数字も達成できればと思っています。」
結局2桁勝利はあげられぬまま9月27日に行われたインタビュー取材では、謙虚な姿勢ながらも勝利への執念を見せたのが印象的だった。
女性騎手史上初の12勝目へ。
中山開催では目標を達成できなかったが、10月7日府中競馬場第8レース。その時はやってきた。騎乗馬は6番人気のホノカ。藤田騎手がこの馬に乗るのは3回目。中でも9月10日は3着と惜しいレースだった。今度こそは……。見守るような、祈るような面持ちで応援しているファンも多かった。大きな期待に全身で応えるかのように勢いよくスタートを切ると、そのままハナを奪い快走。スピードは衰えることはない。2頭、3頭が果敢に追うが、もうこのレースは完全に藤田騎手のペースだった。ゴール直前、他のレースでは決して聞くことができなかった大歓声が競馬場を包み込む。一度も先頭を奪われることなく、逃げ切り1着でゴールイン。
「この馬の競馬ができました。最後はいっぱいいっぱいになりましたが、頑張ってくれました。次の1勝を目指し、もっと上を目指せるように頑張りたいです」
レース後に見せたホッとしたような笑顔には「かわいい」と表現するのは失礼なほど、1人のアスリートとしての強さが滲んでいた。2年目のシーズンも残り2カ月となったが、これから更なる快進撃を見せてくれるにちがいない。10月7日に更に1勝を積み上げ「20年ぶりの快挙となる11勝」を実現した彼女の次の目標は、女性騎手初となる12勝目である。