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高校野球の敬遠はとかく物議を醸す。
「清宮に回す敬遠」の2つの問題。

posted2017/05/15 17:00

 
高校野球の敬遠はとかく物議を醸す。「清宮に回す敬遠」の2つの問題。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

清宮幸太郎は、打席に入る前に捕手に対して何かを話しかけていた。その背中は、見たことがないほどに怒っていた。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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 早実の清宮幸太郎の背中が、怒っていた。

 14日、早実は、熊本で行われたRKK招待野球大会で、地元の強豪・秀岳館と対戦し、1-5で敗れた。

 ホームベースを挟んで互いにあいさつをした後、これまでの清宮なら、負けたときほど、固い握手をし、時間をかけて相手の健闘をたたえたものだ。

 ところがこの日は、相手の目もほとんど見ずに簡単な握手だけをし、誰よりも早く踵を返したのだ。

 問題のシーンは、9回表だった。4点差を追う早実の攻撃は、2死走者なしで、2番・雪山幹太を迎える。ここで秀岳館の鍛治舎巧監督は伝令を送り、3番手としてマウンドに上がっていた背番号1の田浦文丸に敬遠を指示した。

 直後、投手が投球動作に入ると、捕手は立ち上がり、大きく横に移動する。その瞬間、清宮見たさにほぼ満員となっていた藤崎台球場は歓声とどよめきに包まれた。

 清宮は複雑な笑みを浮かべ、自分のベンチの方を見た。雪山が一塁に歩いた後も、清宮は、なかなか打席に入ろうとしなかった。それは、せめてもの抵抗のように映ったし、気持ちを落ち着けているようにも見えた。

 その打席、清宮は結局、一塁ゴロに倒れた。

秀岳館の監督が説明した2つの理由。

 鍛治舎監督は試合後、前の打者を敬遠してまで清宮に打席を回した理由を2つ挙げた。

「田浦は昨日も投げていたのですが、今日も、投げたい、投げたいと言っていた。そこまでして投げたいといった田浦に、清宮君と勝負させてやりたかった。夏、甲子園で早実と当たるかもしれないですし。本人が清宮君と勝負したいと言ったわけじゃない。そこは私が、彼の労に報いてやりたかっただけです。

 もうひとつは、招待試合ですし、そういう見せ場があってもいいのかなと思った。熊本のファンも見たかっただろうし。公式戦ではありえませんけどね。ただ、相手の監督からしたら微妙だろうね。試合後、相手のベンチに行って申し訳ないと謝ったんですけど、だいぶ怒ってました。そんなつもりは毛頭なかったんですけど、バカにされたような気持ちになったんでしょうね。見世物じゃないんだ、と。いろんな見方があると思いますけど、あのときは、そういうのもあっていいのかなと思ったんです」

【次ページ】 相手への敬意と「ファンのために」の意味。

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