マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「秋山翔吾は絶対指名されますか?」
2億円プレーヤー、ドラフトの思い出。
posted2016/12/18 08:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Shigeki Yamamoto
2億プラス出来高の3年契約だという。
そりゃ、そうだろう……と、思った。やっぱり、それほどのヤツだった。
誰だ、この選手を推す私のことを疑ったのは? いったい誰だ、これほどの資質を持った有望な青年の存在を疑ったのは?
「安倍さん、八戸大(現・八戸学院大)の秋山は、絶対指名されますか?」
絶対って言われても、世の中に絶対なんてことあるわけないし……。
そう思いながらも、問いよりもっと強い調子で、私は答えを返すしかなかった。
「だいじょうぶです。間違いなく、指名されます」
2010年のドラフトまで、あと数日を残すばかりになっていた。
ドラフト番組の選手の人選を始めて7年になる。
毎年、ドラフト会議当日、会議の模様の生中継と、ドラフト候補選手の中から数人を取り上げ、本人と家族のここまでの“奮闘”をストーリー仕立てで描く『ドラフト特番』。
ある民放テレビ局で2010年から放送を始めたこの特番は、今はすっかりドラフト当日の名物番組になっているが、その番組作りのお手伝いを私がさせていただくようになってから7年になる。
家族の愛情を浴びながら、その苦難と努力の中できびしい練習に励み、そして今日この日、“ドラフト指名”という成果を獲得してプロ野球という頂点に挑戦していく。
その過程をカメラで追いかけて、感動のストーリーに描く。その対象になるような“ストーリーを持った選手”を探すのが私の役割である。
八戸大・秋山翔吾選手が幼い頃に父親を病気で亡くし、以降、母親が懸命の努力を払いながら、彼とその弟、妹を一流のアマチュア・アスリートに育て上げたことを、私は人から聞いて知っていた。
走攻守どれもアマチュアのトップレベルで揃った野球の技量に加えて、真摯にプレーに取り組む人間性。番組の趣旨にうってつけの存在と確信して、局に推薦していた。