プロレスのじかんBACK NUMBER
プロレス話が嫌いなプロレスラーの話。
長州力は、いつか“消える”──。
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph byEssei Hara
posted2016/01/16 11:00
1982年10月22日に行われた長州力vs.藤波辰爾戦。後に伝説となったノーコンテストの一戦は、「無効試合がぴったりの始まりかたでした」(原悦生)。
ICレコーダーのどこにカセットテープが入るのか?
また、こんなこともあった。
その日は焼き鳥屋のカウンターで、陰謀論について話をしていた。その途中――。
「(急に険しい表情で睨みながら)おい……。俺にハンパな真似は通用しないと思うんだけど?」
──えっ? ど、どうかしましたか……?
「(テーブルの上を指差し)これ……盗聴器だよな? ピカピカ赤いの光ってんじゃん」
──あっ! いや、長州さん、これはICレコーダーといって、これで取材の録音をしてるんですよ。いつもボクが使ってるものと同じやつですよ。
「(ずっとICレコーダーを見つめ)IC? いや、見たことないぞ、こんなの。これ、盗聴器だよ……」
──違います、違います! これは正規に録音する機械なんです。盗聴器なんかじゃないですよ!
「じゃあ、なんでこんな殊更にコンパクトなんだ? こんなもんにカセット(テープ)、入んないだろ!!」
──いや、カセットテープは必要ないですし、いまはこれが当たり前のサイズですよ。みんなこんなもんなんですよ。いや、ホントに盗聴器とかじゃないですから! 取材で録音をしてるだけですから。
「(ICレコーダーを手に持ち)こんなちっちゃいヤツにちゃんと俺の声が入るのか?」
──もちろんです! 盗聴なんかするわけないじゃないですか……。
「信じてもいいのか? なあ? 信じるぞ? 俺は山本を信じてもいいんだな?」
──……信じてください。
「とらやの羊羹でもないんだな?」
「山本」って……「井上(筆者)」なんだけどなぁ。
何度もめげずに取材をした。その結果、ようやく信頼を勝ち得ることができたと思っていても、ふとした誤解でその関係性が一瞬で崩れ去る。長州力との間にはそんな緊張感が常につきまとってきた。
じつを言うと、長州は筆者(井上)のことをずっと「山本」と呼び、名前を間違ってもいるのである。そのことを私もマネージャーも否定することができないまま、もう何年もの歳月が流れた。
なぜなら、怖いから。