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山中慎介、V9モレノ戦は最大の試練。
互いのペースを奪い合う神経戦必至。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byToshio Ninomiya
posted2015/09/21 10:30
9度目の防衛戦で迎える最大の難敵モレノ。サウスポー同士であることはどちらに有利に働くか。
クリーンヒットではなく、まず“当てる”。
モレノの練習をじっと見つめていた浜田代表はこう言っている。
「いつものタイミング、いつものスピードで山中が打っても、当たらないということが起こりうる。とにかく“当てる”ことが重要になる」
まず隗より始めよ。
ここまでの練習のなかで、半身の構えになるモレノを想定して、スパーリング相手がブロックする腕にパンチを当てていこうとしていた。顔面をいきなり狙うのではなく、まずはブロックの上だろうが当たるところから当てていく。それが相手のペースを壊す突破口となるのかもしれない、とでも言うように。
当てる、とにかく当てる――。
“じっくり攻略型”である山中のこれまでの戦いを振り返ってみても、序盤にポイントを許すケースがあった。2、3ポイント取られようがどうってことない。しかし、モレノの場合には、その小差のリードが命取りになる可能性がある。焦りや自分のペースを崩す要因にもなりかねず、相手にリードを許さない我慢の戦いが求められる。そのためのトレーニングを積んできて、コンディションも万全に仕上げてきた。
勝者が試合後に発する言葉は分かっている。
山中は7月、ジムでの練習後にこう語っていた。
「やりにくい相手に対して自分がどれぐらいできるのか、自分自身に期待したいですね。(パンチを)振り過ぎるのではなく、かといって止まって見過ぎるのも良くない。モレノのペースにつられないように自分のペースで戦いたい。
モレノ戦が決まったとき、キャリア終盤の、その始まりなんだなって思ったんです。だからここから先(のキャリア)につなげる試合にしたいですね」
ギラギラと、いい目をしていた。
指名試合ではないため、もっと楽な相手を選ぶこともできた。だが帝拳ジムは今回敢えて最も難しい相手を選んできた。「この試合は、海外も注目している」と浜田代表。モレノという難敵をしっかり退けられれば、帝拳サイドがさらなるビッグマッチの交渉に入ることも予想される。他団体との王座統一戦、米国進出がはっきりと見えてくる。
倒すか、倒されるかではなく、試合に勝つか、負けるかの戦い。
ギリギリの勝負に勝つことができれば、王者のステイタスはまた一段と上がるはずだ。
「最後まで自分のペースで戦うことができた」
勝者が語る言葉は、分かっている。
さて声の主は、山中なのか、それともモレノなのか――。