野球善哉BACK NUMBER
大量18点を生んだプレーボールヒット。
鹿実が味方にした甲子園の不思議。
posted2015/08/06 17:30
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
「勢いに乗ってしまいよったな」
少し呆れた表情で、鹿児島実業の宮下正一監督は、そのシーンを振り返った。
もちろん、褒めているのである。
開幕戦となった鹿児島実業vs.北海の試合、プレイボール直後の1球目を振り返った時のことである。
開幕戦の独特な緊張に加えて、ソフトバンクホークスの王貞治会長による始球式など、平常心を保つのが難しい空気の中、鹿実の1番打者・有村健太はその初球をフルスイング。右翼前安打を放ち、出塁した。有村は三進ののち、バッテリーミスで生還。貴重な先制ホームを踏んだ。
1回に2点を奪った鹿実は、その後も一気に畳みかけた。3、4回で3点を挙げて点差を広げると、5回には一挙10得点。終盤にも加点し、19安打18得点で大勝したのである。当然、勢いを付けたのは1番打者・有村。
誇らしげに有村はいう。
「初球から行くことは決めていました。始球式ではすごい方がマウンドに立っていたんですごく緊張したんですけど、逆に、始球式が終わって緊張がほぐれました。ストレートを狙っていたんですけど、打ったのはチェンジアップ。ヒットを打ってチームに流れを作りたかったので、それができてよかったです」
宮下監督「甲子園は不思議な場所なんです」
彼の一打が直接の勝因ではないが、有村が魅せた積極的な姿勢がチームを鼓舞したのだと宮下監督はいう。
「あいつの一打で、俺も俺もとなったと思うんです。甲子園は不思議な場所なんです。こっちに来てからチーム全体の調子が上がらなくて、不調の選手が多かった。なのに、甲子園で試合をしたら打ち出した。有村の1打席目がチームを変えたのは間違いない」
かくいう宮下監督も、鹿児島実業高校時代は1番バッターだった。高校3年夏には甲子園に出場し、2回戦の高知商戦では先頭打者本塁打を放っている。「1番打者にとって大事なのは、第1打席目。そこでどんなバッティングをするかで、試合の流れができる」と自らの1番打者論を話している。