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追い風でも、9.87秒は史上40人だけ。
トップ選手が語る桐生祥秀の「真価」。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAFLO
posted2015/04/09 10:30
昨年は大学1年にして日本選手権で優勝し、国内では完全に追われる立場となった桐生祥秀。“高速トラック”織田記念での10秒切りが期待される。
追い風であっても、9秒87は史上40人しかいない。
桐生の出した記録の真価を教えてくれたのは、あるトップスプリンターだった。
「9秒87というタイムは素晴らしい。しかも19歳でそんな記録を出すなんて」
桐生の快挙を素直に賞賛するコメントだった。
「追い風3.3mでもその評価は変わらない?」
今思えば愚問だったが、それに対する彼の答えが秀逸だった。
「9秒8台で走った選手は過去に何人いる? その記録を出せずにスパイクを脱ぐ選手がほとんどだろう?」
ハッとする言葉だった。
国際陸連の記録リストを調べると、これまで9秒87以内を出したのは、公認記録で21人、追い風参考記録では桐生を含めて33人、人数にすると40人しかいない。
つまり世界のスプリント史上、桐生は9秒87以内で走った40人の一人。唯一のアジア人選手だ。この数字を見ると、今回の記録の凄さがよりシンプルに、直球で伝わるのではないだろうか。
「9秒台は世界のエリートスプリンターの証。ようこそ」
2013年、2014年に日本で行なわれたゴールデングランプリで桐生と対戦したマイク・ロジャーズの分析も、その記録の偉大さを傍証するものだった。
「筋肉がついて、大人っぽい体つきになった。もう『少年期』から抜け出たね。100mの前に行なわれたリレーで、桐生は(米国チームのアンカーを走ったジャスティン・)ガトリンに一歩もひけをとらなかった。安定感のある、すごくいい走りだった。だから9秒87には驚かなかったよ」
桐生がまだ洛南高校のユニフォームを着ていた頃から対戦経験があるロジャーズならではの感想だろう。
そしてこう続けた。
「僕が最初に10秒を切った時も3.3mの追い風が吹いていて公認にならなかったけれど、その次週のレースで9秒93を出せたから、桐生もすぐに公認で走れるよ。9秒台は世界のエリートスプリンターの証。僕らのグループにようこそ」