マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ドラフト指名を「断る」ということ。
“野茂英雄”になって戻っておいで。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2014/11/13 10:50
プロ志望の選手であっても、順位によっては指名は諸手を挙げて喜ぶものではないことがある。「今はプロに進まない」という決断が実ることを祈りたい。
育成指名を断り、大学から3位で阪神入りした陽川尚将。
「下位指名ですが入ってしまえば、スタートラインはいっしょですから」
そんな勇ましいコメントを発してプロへ飛び込む選手たちが毎年何人もいるが、受け入れる側のふところは、実はそこまで広くない。
正直なところ、あてにしているのは1位と2位。3位が社会人、大学生なら、せいぜいそのへんまで。そこから下で入ってくるルーキーたちは、言葉がきついことを覚悟でいえば、「あとまわし」なのが実情であり、「育成」とついては言うまでもない。
昨年の今ごろ、阪神タイガースにドラフト3位で陽川尚将という内野手が東京農業大から入団した。
大学では、入学した1年春からずっとクリーンアップとして活躍して、4年間フルイニングに出場。通算本塁打23発、故障知らずの“鉄人”として、高い評価を得てのプロ入りだった。
1年目の今季、一軍登録はなかったものの、ウエスタンでは常時ベンチ入りして98試合に出場。一塁手、三塁手で打率.241、6本塁打をマークし、貴重な右打ちの内野手として、来季以降の台頭が期待されている。
この陽川尚将選手、実は高校時代に「育成」を断わっている。
2009年・育成ドラフト。
読売ジャイアンツの3位指名だった。
この時、巨人の育成選手として指名された選手は5名。河野元貴捕手(九州国際大付)以外の3人はすでに退団している。
指名の順位は明確な実力査定であり、通信簿である。
ドラフト指名は、断われる。
その一点を、本人も周囲の大人たちも忘れてはいけないように思う。
「志望届」はプロ側の事情で始まった制度であって、アマ側に義理はない。
野球の勝敗、結果に投手の力量が大きな比重を占めるのは、プロ野球も変わりはない。自然、上位指名の多くを投手たちが占めるのは仕方のないことだが、野手であってもあまりに下位であれば、それはそれでプロ側からの明確な実力査定であり、選手たちへの“通信簿”なのだ。
まして投手で、思いのほか下位の指名であれば、むしろ「いまだその域にあらず」と読み解くべきではなかろうか。