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グランドスラム準優勝で「謝罪」。
なぜ錦織圭の武器は機能しなかった?
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byAFLO
posted2014/09/09 15:20
激闘を終え、準優勝のトロフィーを手にする錦織圭。世界ランクは日本人史上最高の8位となり、再びトップ10に返り咲いた。
錦織「プレッシャーを自分で作ってしまった」
初の四大大会決勝の舞台であったことが影響したに違いない。
「ここまで硬くなったのは久しぶり。試合に入り込めなかった」
第5シードのミロシュ・ラオニッチ、第3シードのスタニスラス・ワウリンカ、そして第1シードのノバク・ジョコビッチを連破した3戦で証明したように、錦織は「メンタルモンスター」と呼ばれるほどの精神力の持ち主だ。ジョコビッチとの準決勝では「自分の中で考えて、しっかりメンタルを準備」することができた。しかし決勝では、その準備に失敗した。
「相手がチリッチで、まあ、得意じゃないですけど何回も勝ってる相手で、より考えることは増えたと思いますし、『勝てる』っていうのが少し見えたのもあまりよくなかった」
四大大会決勝という、初めて経験する一種の異常事態がそうさせたと見ていいだろう。チリッチは年齢も近く、対戦成績でも勝ち越しているだけに、雑念が入り込む隙が生じ、精神面の準備の邪魔をしたのだ。
「フェデラーのほうがやりやすかったかもしれない」と錦織は率直だった。フェデラーあるいはBIG4の誰かであれば、向かっていくだけでよかった。しかし……。
「勝たないといけないというプレッシャーを、自分の中で作ってしまっていた」
錦織は言葉を絞り出した。
決勝戦では、過去3戦での神懸かりとも思える集中力が失われていた。そしてこの日のチリッチは、中途半端なメンタルで勝てる相手ではなかった。
ジョコビッチらを破った錦織に観客は味方したが……。
フラッシングメドウの観客は、ジョコビッチやワウリンカを破って勝ち上がった錦織に肩入れしているように見えた。試合開始前の選手紹介でも、錦織には相手を上回る拍手が鳴り、口笛が飛んだ。過去3戦のような熱戦を期待するファンは、終盤あからさまに錦織を後押しするようになった。ついには、チリッチのファーストサーブのフォールトにぱらぱらと拍手が起きるほどだった。しかし錦織のペースは最後まで上がらなかった。
試合時間1時間54分で決着。ラオニッチ戦、ワウリンカ戦と、トップ10選手との5セットマッチを2つ制し、「マラソンマン」と現地の新聞で呼ばれた勝負強さを発揮する機会もなく、錦織の全米オープンは終わりを告げた。