REVERSE ANGLEBACK NUMBER
カッコ悪くとも、必死さは人を動かす。
浦和が見せたスタイル無視の同点劇。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byJ.LEAGUE.PHOTOS
posted2014/08/09 10:40
昨シーズンはDFながらリーグで9得点をあげ、Jリーグベストイレブンにも選ばれた那須大亮。移籍組ながら、熱い人柄でサポーターからも絶大な支持を受けている。
一瞬の隙を突かれ、久々の追う展開に。
この日はキックオフ直前の夜7時の時点での気温が32度あった。暑さの中で、前半から浦和の速い寄せにまともに対抗していては持たない。おそらく神戸のベンチは後半のある時点までは体力を温存し、浦和に守り疲れが出たのを見計らって攻めるというプランを立てたのだろう。それが見事にはまった。24分、ボールを奪ってカウンターに出ると、シンプリシオがペナルティエリアの中で、走り込んできた高橋峻希にパスを出し、高橋が落ち着いて決めた。それまでは安定した連携を保っていた浦和のGK西川周作とDFラインに微妙な間延びが生じた隙を突かれた失点だった。
浦和がリードされるのは久しぶりだった。複数失点も久しぶり。しばらく味わったことのない立場である。当然焦りはあっただろう。守備的なチームは失点をせず、先制して逃げ切るのが勝ちパターンだが、この日はそれがかなわなくなった。どうするのか。
スタイルにこだわらない必死さも、人を動かす力がある。
そこからの浦和の試合ぶりが面白かった。リードされた7分後にはDFをひとり下げて、FWの李忠成を入れる。これは当然の策だが、同時に今シーズンほとんどやったことのない4バックにシステムを変え、トップをふたりにして点を取りに行ったのだ。
もちろん守っているだけでは追いつけないのだから、攻撃的な選手を増やしたりするのは当たり前なのだが、慣れないことをやるというのは、リードされた展開への準備不足にも思えた。案の定、攻撃的な選手が増え、2トップにボールを集めてもなかなか点が入らない。
時間はどんどん経過する。守備的チームに攻撃の手はあまりないのか。すると、残り3分あたりから浦和はパワープレーに出た。ボランチが下がってパスの供給源になり、代わりにDFの那須大亮がヘディングの強さを生かして攻撃に加わる。そして執拗にロングボールをあげ、アディショナルタイムも終わりに近い48分に那須が同点のゴールを決めた。自販機を叩いて最後のジュースを出したみたいな、なりふり構わぬ得点だった。
今シーズンの浦和の戦い方からすれば、不満の残る試合だったろう。先制したのに守り切れず、相手の術中にはまったような失点を喫し、最後はスタイルもなにもないパワープレーですがりついた。
だが、劣勢になってからの浦和の試合ぶりには、自分たちのスタイルなんかにこだわらない、必死さがあふれていて好感が持てた。「最後は気持ちで勝った」などとはいわないが、こういう、ある種カッコ悪い必死さにも人を動かす力がある。