野球善哉BACK NUMBER
菊池・梵に挑むカープ・田中広輔。
使い勝手と期待感を併せ持つ新人。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/02/27 10:50
春季キャンプで首脳陣にも好印象を与えた広島の田中広輔。菊池、梵が君臨する二遊間でのレギュラー奪取は厳しい戦いだが、果たして。
社会人時代に伸びた、守備とチームへの貢献意識。
その想いは社会人になっても継続した。プロへの気持ちは五分五分か、それ以下になり、どれだけチームの勝利に貢献できるかが田中の命題になっていた。だからこそ、田中は社会人で一番成長したのは守備面だと思っている。チームへの貢献度について自身に問いかけた時、守ることが第一と考えたのだ。
社会人では1年目からレギュラーを獲得し、都市対抗では若獅子賞を獲得。JAPANのユニフォームにも袖を通した。2年間フルで活躍し、昨秋のドラフトで広島から3位指名を受けた。満を持してプロの舞台へとやってきたのだ。
春季キャンプでは2軍スタートとなった梵の代わりに遊撃手に入るなど、精力的な動きを見せている。時にはセカンドに入り、バッターボックスでも冒頭の野村監督の言葉にあるように、マルチな才能を見せつけている。
とはいえ、彼の置かれた立場は決して甘いものではない。
今の広島の二塁手には、昨季のゴールデングラブ賞を獲得した菊池涼介がおり、遊撃手にはベテランの梵英心がいる。そこに田中が割って入る隙間などない。
扱いやすく、それでいて何かを起こす予感を持つ男。
しかし、田中は前を向く。
「自分の立場は理解しています。梵さんはキャンプの途中から1軍に合流されましから、まだまだこれから本領を発揮されていくのだろうと思います。今の目標は、まずは開幕1軍に残ること。打席の結果にはこだわりません。バッティングは打っても3割なので、それ以外で何ができるか、自分で考えていきたいですね。なんでもやろうと思っています。三塁をやれって言われたら、やれる自信もありますから」
今の広島の若手には勢いがある。それは野村謙二郎監督の、昨年チームをCSの最終ステージに導いた、出し惜しみなく戦力を積極的に使い切る采配がチームに浸透しているからだ。ただ、勢いはあるものの、気の利いたプレーができる選手が多いかというと、そういうわけではない。
アマチュア野球の王道を突き進み、酸いも甘いも経験した田中は、自身の役割を熟知している。
何かをやってくれる選手――。
指揮官からしても、これほど扱いやすい選手はいないはずだろう。そしてなにより、その鋭い眼差しがつい期待を感じさせてくれるのだ。