F1ピットストップBACK NUMBER
チームに捨てられた少年の復活物語。
F1新王者ベッテルの“長い旅路”。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2010/12/16 10:30
ユーロF3のルーキーイヤーでは総合ランキング5位だったベッテル。ちなみに、この時の王者はルイス・ハミルトンで圧倒的な速さを見せていた
エリートコースから完全に外れてしまったベッテル。
さて、タイトルを逃したベッテルにはやらなければならないもうひとつの仕事があった。
それは魔の電話。
当時、レッドブルの育成ドライバーたちはレースが終わると、レッドブルのアドバイザーを務めているオーストリア人の元F1ドライバーであるヘルムート・マルコに電話連絡の義務があった。タイトルを逃して、電話をためらうベッテルから「これから、僕はどうしたらいいだろう……」と相談を受けた者もいたという。勝てるチームで走らせてもらいながら、タイトルを逃したベッテルを待っていたのは、レッドブル育成ドライバーとしては二軍落ちの通告であった。
'07年シーズン、ベッテルが参戦した舞台はヨーロッパを転戦する“ワールドシリーズ・フォーミュラ・ルノー3.5”。過去にロバート・クビサがチャンピオンになるなど、決してレベルが低いシリーズではないが、ベッテルと同じ「チーム・ASM」で前年の'05年にユーロF3の王者に輝いていたルイス・ハミルトンが、翌年F1への登竜門カテゴリーである“GP2”へステップアップしたのとは雲泥の差である。
この時点でベッテルは完全にエリートコースから外れていたのである。
BMWザウバーへのレンタル移籍がベッテルの運命を変えた。
ところが、ひとつのF1のシートが空いたことで、ベッテルのレース人生は大きく転換していく。
それはBMWザウバーのシートだった。
ベッテルがユーロF3を戦っていたとき、BMWザウバーのドライバーだった元F1チャンピオンのジャック・ビルヌーブがパフォーマンス不足を理由に事実上、解雇され、サードドライバーだったクビサがレギュラードライバーに昇格する。サードドライバーの穴を埋めなければならなかったBMWザウバーが指名したのが、ベッテルだった。
その時点でベッテルはまだレッドブルの育成ドライバーではあったが、すでにベッテルの評価を低く見ていたレッドブルはBMWザウバーへのレンタル移籍を許したのである。さらに翌年もベッテルをサードドライバーとしてキープしたかったBMWザウバーから、レッドブルはベッテルを呼び戻すこともしなかったのである。
そして、そのままBMWザウバーに在籍していたことがベッテルに次なる運を引き寄せた。'07年のシーズン途中でレギュラードライバーのクビサが大クラッシュ。第7戦アメリカGPでついにF1デビューを果たすのである。