フットボール“新語録”BACK NUMBER
スローインの4つのエリアと約束事。
どこまでも緻密なザック流戦術。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2013/07/28 08:01
自ら走って原口元気に指導をするザッケローニ監督。練習中は監督も体を使って動きを教える。
複数のコースを用意して、最適な解を選ぶ。
もちろんスローイン役の駒野の判断が大事で、もし相手センターバックが豊田について来たら、背後に走り込んだ選手にボールを投げる。もし相手センターバックがついて来なかったら豊田を使う。
複数のコースを用意して、その中から柔軟に最適な解を選ぶのがザック流だ。
(4)の「PKスポットより深い位置からのスローイン」も、極めて論理的だった。
この場合、右MFとトップ下の動きが鍵になる。
まずスローイン役と、ゴールのファーポストに対して、仮想の線を引くことをザックは求めた。その線上に、右MFとトップ下の選手が縦に整列するかのように立て、と。
なぜ、そういう位置関係で立つのか? 結論から書くと、敵のマークを片方の選手がブロックするためだ。いわゆるスクリーンプレーである。
一連の動作は、次のようなものだ。
右MFの選手がスローインを受けるために、反転してゴールラインに向かって走り始める。当然、マークしている相手選手は、それを追おうとする。だが、その瞬間、背後に立つトップ下の選手が、相手が追えないようにブロックしてしまうのだ。
練習では駒野がスローイン役、手前で受けるのが工藤、奥で受けるのが高萩、マーク役がザックだった。工藤が「L字」を描くようにゴールラインに向かって走り始めると、追おうとするザックを高萩がブロック。工藤にフリーでボールが渡り、中央の豊田に正確なクロスを合わせていた。
正直、スローインの約束事は見せたくなかったのだろう。
練習の途中、ザックは苦笑いしながら「明日、図付きで記事になるのを楽しみにしているよ」と報道陣に投げかけた。正直、スローインにおける約束事を見せたくなかったのだろう。ただ、ザックにとっては幸か不幸か、ほとんどの報道陣はメインスタンドにいて、この練習をすぐ横で見られるバックスタンドには自分を含めて数人の記者しかいなかった。すぐ近くにいなければ、ザックの声は聞こえない。今回は図解せず、(1)と(4)に触れるだけに留めておきたい。
すでにザックの練習を何度も経験している槙野智章が、こう解説してくれた。
「この練習は以前にもやってました。ボールをポゼッションするためのスローインじゃなくて、シュートまで持って行くためのスローインなんです。ただつなぐだけじゃなくて、ゴールに直結させるのが目的。いいコンビネーションと、いい位置関係でやることが大切です」
東アジアカップは練習の時間が限られており、これはザック流の基礎の一部にすぎないだろう。ブラジルW杯に向けて、ザックはスローインの連携とトリックをさらに研究し、選手たちに伝えて行くに違いない。