野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
「エースの座」を巡っての切ない想い。
原監督と内海の恋は成就するのか?
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/09/29 12:20
祖父である内海五十雄が元巨人野手だったこともあり、その“巨人愛”は並大抵のものではない内海。高校卒業時には巨人以外の指名を拒否して社会人野球に進み、3年後に巨人入りしている
「エースになってくれるはず」と信じられた、あの日。
本人の発奮を促すためか、新聞メディアでは厳しい言葉を連発する原監督ではあるが、公式サイト「Hara Spirit」では度々内海に対しての本心を打ち明けている。
「内海は私が2度目の監督を務めることになった'06年以降、最も勝っている先発投手です。リーグ連覇も彼の力なくしては到底ありえませんでしたし、今年目指す日本一も同様です。上原が抜けた後の巨人エースを担うのにふさわしい男だと思っています。調整を任せたのは彼への信頼からです。だからこそ、自然とふがいない降板の後はコメントも厳しくなります」(昨年4月30日。「ニセ侍」発言後)
「私が監督に再就任したとき『この投手はジャイアンツのエースになってくれる』と感じたのを、今でも覚えていますが、その存在は年々薄らいでいました。(中略)年齢的に今年は勝負の年です。このまま落ち込んでいくのか、立て直してくるのか、内海にとって分岐点になる年だと思っています。(中略)私は内海に苦言を呈することが多くありますが、それは期待が大きいからです」(今年3月29日。開幕戦後)
なんという親心、いや、愛であろう。
いつまでも“エース候補”から進まないもどかしさ。
原監督は就任以来、内海をエースに育てようと、アメもムチも容赦なく投入してきた。
要所要所の試合では必ずといっていいほど内海にマウンドを預け、WBCの日本代表にも選抜するなど、日常的に巨人戦を見ていない人でも、内海をエースに育てたいという原監督の気持ちは手に取るようにわかるほどだった。
いつまでもエース“候補”を脱しきれないまま迎えた今シーズン。原監督はこんなことを言っている。
「今年エースにならなければ、この先そうそうチャンスはなかなかない」
最後通牒とも取れるその言葉は、最大級の期待の表れでもあった。
原監督からの気持ちに応えられない、内海の苦悩。
「エース候補と毎年言われていますけど、今年こそやらなければいけませんね」
内海自身もまた今シーズンの原監督からの特別な期待を肌で感じていた。今季は選手会長も任され、名実ともにチームの大黒柱になるにはこれ以上ない年だった。
開幕戦から5連勝を飾りスタートダッシュに成功。開幕戦のお立ち台では「20勝します」と大きく宣言したが、夏場になると約1カ月間で6連続KO。登録抹消、中継ぎ降格も言い渡され、「もう勝てないんじゃないかと思った時もあった」というところまで追い込まれていた。
どの世界でも、期待してくれている人がいるのに、それに応えられない辛さといったらない。
原監督からの期待、特にその裏返しである辛辣コメントの受け取り方も、多分、我々が想像する以上の愛を感じとっているのだろう。現に発言の直後の内海の行動を見れば、その試合に異常なほどの執念を燃やしていることがわかる。