野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
「エースの座」を巡っての切ない想い。
原監督と内海の恋は成就するのか?
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/09/29 12:20
祖父である内海五十雄が元巨人野手だったこともあり、その“巨人愛”は並大抵のものではない内海。高校卒業時には巨人以外の指名を拒否して社会人野球に進み、3年後に巨人入りしている
本気で頭を抱えている人間を、初めて見た。
9月22日の東京ドーム。午後9時のちょっと前ぐらい。4万4545人が見つめる東京ドームのど真ん中で、巨人の内海哲也は全力で頭を抱えていた。多分、この時マウンドに穴があったら本当に入っていただろう勢いで……。
この日の内海が並々ならぬ決意で投げていたのはよくわかる。前々回登板した9日には最下位横浜を相手に4回途中6失点でKO。試合後に原監督からは「論ずるに値しない」と突き放され、失地回復を果たすべく挑んだこの日のマウンド。中盤から強気のピッチングでペースを掴み、横浜打線を完封目前まで追い込んだ。
ところが9回2死から、ヒット、ヒット、ヒット、四球で1点返され、なおも満塁。横浜の代打・新沼が放ったセカンドへの小飛球に、試合終了かと思いきや、寺内が追い付けず。こぼれたボールを目にした内海はその場にしゃがみこみ、問題のポーズをとったわけである。
内海以外、ポカーンである。
厳しかった原監督が、少しだけ優しかった夜。
当然、ピッチャー交代。クルーンが後続を抑え事なきを得た試合後。さぞかし原監督はおかんむりかと思えば、意外にもこんなコメントが出てきた。
「ナイスピッチング! 結果的には不満も一言、二言、言いたいけど、状態は上がってきている。少し課題を残しましたが、ナイスピッチングです」
これまでなら厳しいことしか言ってこなかった原監督が、少しだけ優しかった。
一方で失意の底に沈んだ内海はこう言っている。
「胸くそ悪いです。悔しさしか残っていない。監督にはバカ野郎と言われた」
この温度差はなんだろう。
コメントだけでは「バカ野郎」のニュアンスがわからないのでなんともいえないが、内海の悩みが深そうなことだけは、よくわかった。
原監督から内海に何度も振り下ろされた愛のムチ。
原監督が試合後に出す投手に対してのコメント、特に内海に対しては手厳しい。
「論ずるに値しないね」
「ベストピッチでしょう」(8月4日阪神戦で5回5失点KO後、皮肉たっぷりに)
「今のままならニセ侍だ」(昨年4月20日。開幕から3試合勝ち星なしのWBC戦士に)
などなど、内海が不甲斐ない投球をすれば、なんともメディア受けしそうな辛辣コメントを連発してはスポーツ紙上を大いに賑わせてくれている。特に代表作ともいえる「ニセ侍」なんてコピーライター顔負けの秀逸さだ。
それらの檄が内海にジャイアンツのみならず球界を代表するピッチャーになってほしいという大きな期待をかけての愛のムチであることは、すでに誰もが知っていること。