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メジャーは甲子園のココを見ている!
スカウトが測る投手のある能力とは?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/24 10:30
メジャーリーグの取材に行くと、試合中は「プレスボックス」というバックネット裏上方に陣取る。プレスとはいってもメディア関係者だけではなく、球団の広報担当者や他球団のスカウトもプレスボックスに座る。だからその気になれば、いろいろなスカウトの人と話ができる。
以前、アメリカ東海岸に本拠地を持つ球団のスカウトと話をしたことがあった。アメリカのスカウトがどんな「視点」で選手を見るのか興味があったからだ。彼曰く、大学生と高校生は見るポイントが違うという。大学生は素質に加えて技術が加味されつつあるが、高校生は素質が第一と。
素質。持って生まれた力と言っていいだろうか。体の大きさ、豪速球が投げられるなどは天分に恵まれている証拠である。そのスカウトの話では、高校生投手を見る物差しはある意味、単純だという。
「身体の大きさ、それにどれだけ三振をとれるか、特に空振りの三振を」
「K/9」という指数から投手の何が見えてくるのか?
空振り、というのを重視するとそのスカウトは言っていた。見逃しよりも空振りの三振の方にスカウトとしては数倍の価値を置く、と話していたのが印象的だった。
当時はまだ私もスタッツ、数字にあまり詳しくなかったので、スカウトの使っている指標を少しレクチャーしてもらった。「じゃあ、幼稚園レベルからスタートするぞ」と言って教えてもらったのが、「K/9」という指数である。投手が9回あたり、つまり1試合当たりどれくらいの三振を取るかというスタッツだ。
奪三振数よりもK/9の方が先発もリリーフも、同じ土俵で比較が可能なのだという。
高校生の場合は、K/9が9以上であることが望ましいという。つまり、1イニングに最低1個の三振の取れる投手は、なんらかの特徴を持っていると考えられる。速球、あるいはとっておきの変化球を持っているかもしれない。
そこで思い立ったのは、これまで甲子園を沸かせてきた「怪物」たちのK/9はどれくらいだったのかということである。
最新の測定法でも圧倒的な数字を誇る江川卓。
どの投手を選ぶか迷ったが、自分の記憶にある、思い入れのある選手たちを調べることにした。
K/9 | 奪三振 | イニング数 | 年度 | |
---|---|---|---|---|
江川卓(作新学院) | 16.3 | 60 | 33 | 1973年春 |
11 | 32 | 26.1 | 1973年夏 | |
荒木大輔(早稲田実業) | 6.4 | 34 | 47.1 | 1980年夏 |
松坂大輔(横浜) | 8.6 | 43 | 45 | 1998年春 |
9 | 54 | 54 | 1998年夏 | |
斎藤佑樹(早稲田実業) | 6.3 | 26 | 37 | 2006年春 |
10.1 | 78 | 69 | 2006年夏 | |
田中将大(駒大苫小牧) | 13.6 | 38 | 25.2 | 2005年夏 |
9.2 | 54 | 52.2 | 2006年夏 | |
菊池雄星(花巻東) | 9.2 | 41 | 40 | 2009年春 |
7.5 | 27 | 32.1 | 2009年夏 | |
島袋洋奨(興南) | 9.5 | 49 | 46 | 2010年春 |
9.3 | 53 | 51 | 2010年夏 | |
一二三慎太(東海大相模) | 5.1 | 24 | 41.2 | 2010年夏 |
中川諒(成田) | 7.8 | 39 | 45 | 2010年夏 |
大西一成(報徳学園) | 5.8 | 17 | 26 | 2010年夏 |
数字を調べて、圧倒されたのは1973年、昭和48年春の江川卓である。もはやこの春のパフォーマンスは語り草になっているが、4試合での奪三振数は60、K/9は16.3になる。1試合で15個以上の快投は自分の調子や相手の力量によって達成可能だ。しかし4試合にわたってのK/9が15を超えるというのはモノが違う。
1973年夏のサンプルはわずか2試合、しかも相手が柳川商(バントの構えで江川に対抗した)と銚子商(翌年夏優勝)だったから、それほど三振は増えていないが、それでもK/9は11。江川卓が甲子園ではケタ違いの大投手だったのはこの数字からもわかる。