濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“殺し合い”と“MMA”の真骨頂。
長南亮と引退する池本誠知の激闘。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2013/05/09 10:30
4月28日に開催されたDEEP・大阪IMPホール大会のメインイベントでの長南亮(左)と池本誠知。グラウンドでは体格に勝る長南が終始上になる展開で、池本は2Rに長南のヒジ打ちで流血するも戦いをあきらめることはなかった。
4月28日に開催されたDEEP・大阪・IMPホール大会のメインイベントは、正規の階級ではない75kg以下契約で行なわれた。ライト級(70.3kg)の池本誠知が、ウェルター級(77.1㎏)である長南亮と対戦したためだ。
池本はこの試合が引退試合。ラストマッチの相手に長南を指名したのは「楽に勝っても仕方ない。一番恐い相手と、一番の大勝負がしたい」という気持ちからだ。かつてPRIDEで活躍し、UFCにも参戦した長南は、殺気に満ちたアグレッシブな試合ぶりから“殺戮ピラニア”の異名を持つ。試合が決まると、さっそく「殺します」と宣言してみせた。「そういう人だから、最後に闘いたかったんです」と池本は言った。
試合前から繰り広げられた“男気の売り買い”。
長南が試合をするのは、2011年の大晦日以来、1年4カ月ぶりのことだ。昨年4月にジムをオープンし、指導と経営に専念。自分のための練習はしていなかった。できてあと1試合。状況によってはそれもないかもしれない。そう考えていたところに、池本との対戦オファーが届く。勝てば自身の引退試合へ。負ければそのまま引退。そう覚悟を決めて、彼は試合を引き受けた。
体重差を少しでも埋めるために、長南は75kgというキャリア最軽量での試合に臨むことになった。そして、長南は「より“深い”闘いがしたい」と通常ルールにはないヒジ打ちありの試合形式を求め、池本はこれを了承した。
成立過程から体重、ルールまで“男気の売り買い”を続けた池本と長南は、リング上でもエモーショナルな攻防を繰り広げた。
序盤からテイクダウンに成功した長南が、パウンドとヒジを力いっぱい振り下ろす。池本はガードポジションからの関節技や蹴り上げで対抗。一つひとつの動きに気持ちがこもっているのが伝わる闘いだった。長南は文字通り「殺す気」で殴り、池本は完全燃焼を期す。気がつけば池本は出血し、長南もまぶたを腫らしていた。
最終3ラウンド、長南がスタンドの打撃で仕留めにかかる。左フックと右ストレートがヒットし、池本は後退。だがそこで、池本が息を吹き返した。パンチで反撃し、長南を一瞬、あわてさせる。試合後の長南は、池本の奇跡的な頑張りをこう振り返った。
「なんで倒れないんだって思いましたよ。あれは執念でしょうね。最後は向こうの気持ちにちょっと押されました」