野ボール横丁BACK NUMBER
勇気ある挑戦なくして球界の発展なし。
大谷と日本ハムが追いかける「夢」。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/04/22 12:50
大谷は、4月13日の試合で守備の際に右足首を捻挫し、現在、鎌ケ谷でリハビリ中。一軍での先発デビューを目指して準備を進めている。
誰もやったことがないことをやろうとすると、とかく周りは否定的なことを言うものだ。
NHKの大河ドラマ『八重の桜』を観ていたら、江戸時代の洋学者、佐久間象山がそんな話をしていた。尊王攘夷派が幅をきかせる幕末の情勢の中、開国論を唱え続けた象山は結局、それで暗殺されてしまった。
日本ハムの大谷翔平の二刀流挑戦も、それくらい、時代の常識を超えたものなのだと思う。論調を見聞きしていると、現場に近い関係者ほどネガティブな見方をしている。
この雰囲気――。野茂英雄がメジャー挑戦を表明したときに似ている。あのときもそうだった。できるわけがないだろう、と。ごく最近で言えば、大谷が日本のドラフト指名を拒否して直接メジャー挑戦を決断したときも同じような空気が流れた。やめたほうがいい、と。
つまりは、「冷静な大人の判断」という仮面をかぶった嫉妬である。
だが、ファン心理としては、純粋に見てみたいではないか。プロの世界で「エースで4番」を張るという夢のような選手を。
「本人が野手一本に絞るといえばいつでも断念する準備はある」
開幕戦のとき、大谷指名を決断したGMの山田正雄に「どちらの資質をより買っているのか」と問うと、こう返してきた。
「それよりも、最近の日本球界は夢がないじゃない。やる前から無理、無理ってね。菅野(智之)を指名したときもそう。指名する前から無理、無理って。でも勇気を持ってやってみればいいんだよ。そんなに簡単ではないけどね」
うがった見方をすれば、入団交渉の際、二刀流というプランを持ち出して大谷を口説いた手前、本人が納得するまで見守るしかないという事情もあるのかもしれない。
担当記者によれば球団の本音は「野手」だと言う。
「本人が野手一本に絞るといえばいつでも断念する準備はある。ただ、投手一本にしぼりたいといったらどうなるのかな……。そこは微妙ですね」