熱パ!クライマックス劇場BACK NUMBER
若き投手陣を背中で引っ張って――。
日ハム“最強の2番手”武田勝の誇り。
text by
加藤弘士Hiroshi Kato
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/10/09 12:50
10月8日現在、武田勝の成績は11勝7敗、防御率2.39。開幕投手の座は斎藤佑樹に譲ったが、抜群の安定感に栗山監督からの信頼は厚い。
全身で浴びるビールの味には、これまでとは違う美味さがあったと言う。武田勝は後輩らの「襲撃」を正面から受けて立ち、歓喜に浸った。10月2日、日本ハム3年ぶりのパ・リーグ制覇。札幌ドーム地下2階の特設会場では、ビール1500本が15分で消えた。
「今までは自分のことだけを考えてプレーしてきましたが、今年は少しでも先頭を切って、『引っ張りたい』と思う中での優勝だったので。いつも以上にしんどかったと言えばしんどかったけど、勉強になった1年だったのかなと思います」
いつも冗談交じりに話してくれるのだが、ICレコーダーのスイッチを入れると、ちょっとだけかしこまった言葉遣いになる。その生真面目さがまた、この男らしいなと思った。
「永遠の2番手」から「真のエース」へ――。今年は武田勝にとって、転機のシーズンになる。そう確信したのは1月、静岡・中伊豆での自主トレを取材した時だった。
中伊豆は、社会人・シダックス時代、野村克也監督のもとで野球漬けの日々を送った思い出の地だ。「ノムさんはごまかしが利かなかった。いつも見られている感じがしていた。だから、ずっと緊張していたよ。今でも夜になると、ミーティングが始まる気がするんだ」。朝ご飯を食べながら、そんな話をしてくれた。テーマは「原点回帰」。早朝から始動し、厳しい体幹運動で全身をいじめ抜いた。
ダルビッシュが抜け、武田勝がエースになると誰もが思ったが……。
「何とか1年間、元気にシーズンを終えたいんだよね。そのためにも今、苦しんでおこうって。この『貯金』がいつか、役立つ時が来ると思うから」
絶対的エース・ダルビッシュ有がレンジャーズに移籍。実績を考えてみても、ファイターズのエースが武田勝になることは、誰が見ても明らかだった。昨季は後半、左肘の違和感に苦しんだこともあり、シーズンを通じてのフル稼働を自らのノルマに課していた。中伊豆の地で流す大粒の汗からは、新しい大黒柱としてチームをけん引したいとの自覚がうかがえた。
栗山英樹新監督率いるファイターズの今季は、サプライズの連続だった。戦略上の理由から開幕投手には斎藤佑樹が抜擢され、「本命」と見られた武田勝は第2戦に回った。ダルビッシュの穴は、過去3年間、0勝に終わっていた吉川光夫が覚醒し、14勝5敗、防御率1.71と見事に埋めた。
「真のエース」になると見られていた34歳の技巧派左腕は、若き力にこれらの大役を譲った格好になる。立正大では金剛弘樹(中日)に、シダックスでは野間口貴彦(巨人)に、そして昨季までの日本ハムではダルビッシュ有の陰に隠れたように、またも武田勝は「永遠の2番手」に甘んじたのだろうか。