プレミアリーグの時間BACK NUMBER
鉄壁守備でアーセナルが優勝候補?
失点が激減した裏に新助監督の存在。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2012/09/26 10:30
アウェイでの第5節マンC戦で、劇的な同点ゴールを決めたコシェルニーのもとに集まるアーセナルの選手たち。ベルメーレンが急遽病欠となった同ゲームでも、マンCの攻撃を1点に抑えた。
ボールドの指導で最終ラインは「明らかに変わった」。
但し、元CBが右腕になったからといって、敵を攻めることに主眼を置く練習内容が変わるとは思えない。ベンゲルは、以前、守備コーチの必要性に関する報道陣の質問を、「侮辱」と受け取ったプライドの持ち主だ。今季開幕後にも、「私には30年間の指導歴がある。練習メニューを決めるのは現在も今後も監督の私だ」と言っている。しかし、同時に、構成員は昨季と変らない最終ラインが、辛口で知られる評論家、アラン・ハンセンにも「統率が取れている。明らかに変わった」と評価されていることも事実だ。
練習は非公開のため、伝え聞く情報に頼るしかないが、新聞記者兼テレビ解説者としてメディアで働く一方、アーセナルの元CFとして内部事情にも通じているアラン・スミスは言っている。
「監督は、きちんとスティーブに経験を生かす場を与えている。練習中、守備陣の動きで気になる点があれば、新助監督が、選手たちを呼んでアドバイスを与えているようだ」
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現役選手の証言もある。CBでキャプテンのトーマス・ベルメーレンは言う。
「スティーブの存在は、特にDFにとっては有り難いね。守備の陣形に関して色々と忠告してくれる。多くを学ばせてもらっているよ」
組織的守備力の改善が選手個々の失態をカバーする。
例えば、1年前には大量失点の一因となったマンU戦を筆頭に、気の毒なほど「未熟」と指摘されたSBのカール・ジェンキンソン。今季になって、開幕から国内各紙で及第点以上の評価をもらい続けているのは、個人的な成長以上に、組織的な改善によりジェンキンソンの若さが致命傷となる局面が回避されているからではないだろうか? バカリ・サニャが出場可能ならばベンチという、20歳SBの立ち位置は昨季と変わっていないが……。
中盤の底を含む守備ユニットは、第4節サウサンプトン戦(6-1)でのGKボイチェフ・シュチェスニの落球と、モンペリエ戦でベルメーレンが与えたPKという、フォローが利きようのない個人的なミスがなければ、無失点のまま開幕2カ月目に突入できていた。
ボランチに関しては、アレックス・ソング(現バルセロナ)を失った影響が不安視された。ソングの穴が指摘されること自体、アーセナルに一線級の守備力が不足していた証拠だが、実際には、定位置を掴んだアブ・ディアビの活躍が目立つ。昨季は怪我に泣いたディアビは、恵まれた体格と豊富な運動量でボール奪取を繰り返すだけではなく、カウンターの起点として攻撃面でも貢献している。
先制されたCL初戦で演じた2分間での逆転劇は、落ち着いてボールをキープしながら敵陣内まで上がり、トップ下のカソルラにパスを通した、ディアビのプレーで幕を開けた。イエロー2枚で退場の危険性もあった、タックルの判断に改善の余地はあるが、26歳のMFは、入団7年目にして、「パトリック・ビエラ2世」と期待された片鱗を窺わせている。