濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ケージに遮られたリベンジ――。
マッハ敗戦が日本に突きつけたもの。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2010/06/07 10:30
ケージを背に反転することができず、ニック・ディアス(写真右)に腕ひしぎ十字固めを決められる桜井“マッハ”速人
興奮の頂点から、失意のどん底へ。
5月29日、さいたまスーパーアリーナで開催された『DREAM.14』の観客は、わずか数秒の間にとてつもない落差を味わうことになった。
フィニッシュの直前までは、確かに桜井“マッハ”速人のペースだったのである。パンチをヒットさせ、グラウンドに持ち込まれても立ち上がる。思いきりのいいタックルを決めてニック・ディアスをケージの隅に追い込んだ瞬間には、多くのファンがマッハの勝利を確信したのではないか。
この大会では、『STRIKEFORCE』ナッシュビル大会での青木真也の敗戦を受け、通常のリングから北米基準であるケージでの開催へと変更されていた。メインイベントはマッハvsディアス。青木に勝ったギルバート・メレンデスの同門にして『STRIKEFORCE』のウェルター級王者であるディアスに、“相手の土俵”ともいえるケージで日本人選手が勝つ。これ以上に美しいリベンジ劇はないはずだった。そして、その瞬間は目前に近づいていたのだ。
ピンチにも失われなかったディアスの冷静さ。
だが、テイクダウンされ、ケージに押し込まれながらもディアスは冷静さを失っていなかった。
「自分は下からの攻撃が得意なんだ。それを知っている人間は、俺をテイクダウンしようとはしない。だが、マッハはそれをやってきた。テイクダウンされた時、自分にとっていい展開になったと思ったよ」
下から腕を取り、足をマッハの上体に絡めていくディアス。少年時代からジムで何万回と繰り返してきたであろう腕ひしぎ十字固めの基本的な動作を、彼は迷うことなくマッハに決めてみせた。
もちろん、腕十字の切り返し方はマッハも心得ている。「ターンして(腕を)抜くのが僕のパターン」だと試合後のマッハは語っている。しかし、マッハが頭を軸に回転しようとした方向には、ケージという“壁”が待っていた。中途半端な状態で動きを遮られたマッハは、タップすることしかできなかった。