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<ナンバーW杯傑作選/'10年1月掲載> 名将ヒディンクに学べ 「オランダの倒し方、教えます」
text by
サイモン・クーパーSimon Kuper
photograph byPics United
posted2010/06/03 10:30
オレンジ軍団を悩ませるメンタルの問題。
1974年のW杯で西ドイツは東ドイツと戦ったが、オランダは常に自らと戦ってきた。大言壮語する選手の集まるこの国では、しばしばチーム内に亀裂が生じる。'90年大会とユーロ'96では、そのせいで挫折も味わった。今オランダの関係者は同じことが南アフリカで、それもウェスレイ・スナイデルが原因でくりかえされるのではないかと気を揉んでいる。
チームのなかに、あの小さなプレーメイカーに好感をもつ者はいない。スナイデルは集団になじもうとしない。予選のスコットランド戦で控えに回されると、タイムアップの笛が鳴ったとたんにチームメイトを無視して更衣室へ走った。また、自分より安い給料しかもらっていない同僚をからかったこともあるし、ロビン・ファンペルシとはフリーキックをめぐっていつも口論している。
監督の娘婿であるマルク・ファンボメルも、扱いにくさではスナイデルに引けをとらない。このところオランダがクラレンス・セードルフをはずしているのは、中盤で強烈なエゴの持ち主が3人もひしめいたら、チームのバスが爆発しかねないからだろう。
ユーロ'08でオランダ戦を前にしたヒディンクは、イタリアを3-0で破って喜びにひたる相手のビデオを見せた。幼子を抱き、ピッチをパレードする選手たちは、すでに優勝でもしたような騒ぎようだった。デンマークを相手に好スタートを切った場合、オランダが人気薄の日本を相手に、傲慢さに我を忘れるという危険をふたたび冒す可能性はある。
中盤突破にこだわるな。ボールを奪ったらすぐサイドへ。
日本サッカーは技術の高い中盤を売り物にしている。だが、ふたりの中村と遠藤は、中盤からきれいなパスを通してゲームを組み立てるのをあきらめなければならない。
'07年の後半から、オランダは日本とよく似た4-2-3-1を敷くようになった。おそらくW杯でも、ナイジェル・デヨングとファンボメルを守備的MFに据え、その前にスナイデル、ラファエル・ファンデルファールト、アリエン・ロッベンという創造性のあるプレーヤーを並べてくるだろう。攻守ともにオランダの武器は中盤の中央にこそある。日本が恃(たの)みとする長谷部も、守備的MFのデュオにはまず勝ち目がないので、中央での戦いは慎重に避けるのが上策だ。
だからといって日本が損失をこうむることはない。ヒディンクはオランダの強さを無力化する方法を発見している。ボールを奪うと、すぐさま左右に展開させたのだ。アンドレイ・アルシャビンは、デヨング、オルランド・エンヘラールと対峙するかわりに左サイドを走りつづけ、番狂わせを演じたのである。