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宮本恒靖の人間的強さは、
いったいどこから来るのか。
~『宮本恒靖 学ぶ人』を読む~
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph bySports Graphic Number
posted2012/08/10 06:00
『宮本恒靖 学ぶ人』 佐藤俊著 文藝春秋 1200円+税
ドイツW杯、分裂の原因となったあの問題にも口を開く。
この人間的強さは、いったいどこから来るのか? その疑問とともに、『宮本恒靖 学ぶ人』を手に取った。著者の佐藤俊さんが信頼関係を築き、普通では入れない領域まで踏み込んでいるため、宮本がすぐそこにいるかのような気分で読める。練習場から車に乗り込んで厳しい質問を投げかけたかと思えば、代表戦後にレストランに移動して赤ワインでリラックスする。会話が予定調和で終わらないため、何気ないやりとりの中にも真相が潜んでいるのだ。
たとえばドイツW杯でチーム分裂のきっかけになった「どこからプレスをかけるか?」という問題も、約1年前からくすぶっていたことが描かれていた。宮本を中心に中田英寿らと話し合いを続けたが、Jリーグと欧州でプレーする選手たちの感覚が異なり、最後まで意思を共有できなかった、と。
そして最後のページに達すると、求めていた“答え”が待っていた。あとがきにおいて著者は、こう綴っている。
“インタビューしやすい”イメージの裏側にある本当の宮本恒靖。
「宮本のインタビューは、巷では非常にやりやすいと言われてきた。(中略)だが、より彼の内面に踏み込もうとすると、非常に難しい選手だった。取材現場でも“宮本恒靖であること”を頑なに守ろうとする」
なるほど、と膝を打った。常に“宮本恒靖”であろうとするからこそ、たとえ批判者を前にしても感情が揺らがないのだ。ピッチの中でも外でも隙がないという意味で、「24時間カメラが横にあるつもりで生活している」という本田圭佑と似ている部分があると感じた。
常に自分が何者かを認識し、何をすべきかを貫き通していることに、宮本という人間の狂気が隠れている。そして、その狂気を支えているのが、誰よりも貪欲に学ぶという行為なのだろう。
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